「08小隊版ドム」のこと

Ver.1.01


 今日初めて「第08MS小隊」を見ました。毎回お約束の旧作MSリメイクですが、ドムのリメイク画稿は未見で、封入ライナーノーツで初めて目にしました。そこで気になったのが、まず腰の「帯」状の部分の解釈。旧作版のドムは、この「六」の字状の紫色のベルトがもともと意味不明のデザインなんですよね。
 これに対し出渕版ドム「R2」では、どこまで意識したものかは不明ですが、フロント・スカートのヒンジ(専門用語・「ちょうつがい」のこと)という解釈を加えたわけです(かなり好意的な解釈)。
 そして、それを最も明確な形で「意図的に見せた」のがカトキ版「F/Trop」で、カトキ氏はフロント同様、サイドアーマーのそれもヒンジとして明確な意図のもとにデザインし、「意味不明な部品に意味を与えていく」という高度な知的遊戯を行っています。

 結局、「ドムの帯」にまつわる解釈狂騒(誤変換だけどコレでもいいや(^^;))はこの「ヒンジ解釈」に一つの決着を見ます。これを上回る超解釈を提示する以外、この軍門に下らざるを得ないのが「ドム学最前線」の一つの常識だったように思われます。しかるに最新デザインとしてオフィシャルに提示されたのがコレです。困ります(笑)

 今回のドムに関して「唯一評価出来る」のは両足のフレアです。良く見るとフレアの後ろ、アキレス腱の辺りにインテイクが開口しています。もともと「熱核ジェットのインテイク問題」というのは、密かに未解決の問題でした。デザイン後に設定を作られた大河原版、宇宙用出渕版はまあソレとして、明確にインテイク概念を持ち出したカトキ版でも問題があります。
 まず、決定的に「位置が低い」ということです。あの位置にインテイクがあるのなら、「熱核反応炉(ジェット)」はあそこのインテイクより下(好意的に解釈してもその周辺)に位置することになり、なんだかおかしなことになってしまいます。さらに、熱核ジェットを熱核ロケットに換装しただけの(はずの)リックドムのノズルがフレア側についているのも説明が付かなくなります。話が脇道にそれましたが、こういう理由でインテイク問題は未解決なまま、「デザイン上の課題」として宿題に出されていたワケです。これに対して「果敢に挑んだ」という意味で08小隊のドムも正当に評価したいと思います。

 でもヨイショはここまで、あの位置(フレアの後ろ)では「積極的な吸気」はほとんど不可能です。フレア前面から裏面まで流れてきた気流はハチャメチャなことになっているため、ハッキリ言ってあのインテイクでは吸気は困難と思われます。この世の中には「境界層流」というものがありまして、機体表面の近いところを流れる気流は機体との摩擦で流れを乱されほとんど「気流」としての体を為さなくなっています。ですから効率良く吸気するためにはインテイクは何者にも乱されていないフレッシュな気流に対して口を開けることが必要です。この辺の境界層流に関しては、カトキ氏は骨の髄まで染みている人ですので「F/Trop」ではインダクションポッドをかなりサイドに張り出させ、進行方向からの気流をほぼそのまま取り込めるようにデザインされています。(Bf109まんまですが(^^;))また、グフH8では両サイドのインテイクは別として爪先直上にインテイクを配し、これもフレッシュな外気を取り込むことに成功しています。さらにスカート後部のジェットですが、これも膝アーマー両脇から吸気しています。(少なくとも完全なる消費者ではなく、なんらかの形でMSデ ザインを行う者であれば「好き嫌い」ではなくこういう点を見たいものです。)こと「気流」に関してはカトキ氏には脱帽です。こういう「マッハの戦い」に多くのデザイナーは挑戦するどころか参加すらできないのが現状です。

 また脇道にそれましたが、08小隊のドムは吸気問題だけでなく、インテイク位置も低いため、ここから吸気してもほとんど何の意味もありません。このインテイク以後に何か重要なメカニズムが入る余地がないからです。超好意的に解釈して「フレア内面の加熱を押さえる」ないし、「ホバー噴射に少しでも外気を混ぜ、排気温度を下げることによって赤外線探知をかわす」の2点くらいしか意味付けを与えられません。インテイク問題に果敢に挑戦した08小隊ドムでしたが、結果は残念ながら「一回戦敗退」ってところでしょうか。もちろんヨソからの圧力で「旧作デザインにないラインを、あまり目立つところに入れるな」程度の指示は出ているでしょうから分の悪い勝負ではありますが、もうちょっと善戦してほしかったですね。正直なところ。 


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