■「ダルマシアン」または艦名のこと
Ver.1.02

 ザンスカール帝国最大のスクイード級戦艦はカイラスギリー要塞の曳航、および護衛用として2隻が建造され、それぞれ「スクイード1」、「スクイード2」と呼ばれていたことはご存知と思う。さて、このうちスクイード1はU.C.0153年4月27日、リガミリティアとの戦闘で失われ、同戦闘からの離脱に成功したスクイード2はその後「ダルマシアン」と改称し、ムッターマ・ズガン艦隊の旗艦として再び戦場に姿を現すことになる。この「ダルマシアン」が今回のテーマである。さて、何故に「ダルマシアン」なのか?「ダルマチア(ダルマシア)」ではいけないのか? 全てはこの疑問から始まったのである。

 そもそもザンスカール帝国の艦艇命名法は「太陽系内の衛星から」というのがセオリーである。もちろん例外はあるが、少なくともネームシップではそうなっている。この法則に当てはまらないのは「スクイード級」のみである。ご存知のとおり「スクイード」とは「ヤリイカ」のことであり、「スクイード級」の艦形からそう付けられたとされている。確かに言い得て妙であり、的確なネーミングセンスと言えなくもない。

 だが、それでは何故に「ダルマシアン」なのか?

 この問題に触れる前に、ここで旧世紀の戦艦命名法を見てみよう。旧世紀の戦艦は若干の例外はあるものの概ね各国とも自国内の地名、それもかなり大きな行政単位(州名、県名)を艦名として使用していた。振り返って「ダルマシアン」とは「ダルマチア地方の」という意味であり、実在の地方名「ダルマチア」が語源であることは疑いない。まさか「犬」でない以上は、そう考えるしかないと思われる。その「犬」とて語源は同じなのだから、この際問題ではない。地名から採られた艦名であることは疑いないところであろう。しかし、冒頭でも述べたとおり、それならば「ダルマチア(ダルマシア)」となるべきであって「ダルマシアン」ではおかしい。これでは「ダルマチア人」とか「ダルマチア製の」という意味にしかとれないのである。ニュアンス的には「アメリカン」というのと同じである。そこで思うのだが、同じ「地名」といってもU.C.世界には地上と同じように宇宙にも地名がある。それも、宇宙移民の歴史が150年を経たこの時代となっては十分に生活に溶け込んだたものとなっているはずである。これを考慮に入れた場合、宇宙に勃興したスペースノイド国家にとって、地球上の 地名はそれほど価値のあるものだろうか。逆にスペースコロニーを始めとした宇宙の地名から命名する方が自然なのではあるまいか。それも、「反地球連邦」を以って旗印となす集団であれば、敢えて言わずもがなであろう。そして、ならばこその「衛星シリーズ」なのではないのか。と、考え至ったのである。

 そういえば「マリア主義」発祥の地は、サイド1の「アルバニアン・コロニー」である。これは「アルバニア地方の」「アルバニア風の」という「アルバニアン」からきたものであることは間違いない。おそらく旧アルバニア地区からの移民が数多く入植したのだろう。また、ザンスカール帝国のあるサイド2には「マケドニア政庁」があるが、これとてもコロニーそのものを指した場合、「マケドニアン・コロニー」と呼ぶのが自然である。また、サイド2でも月寄りには「カラブリア」と呼ばれるコロニーがあるが、やはり「カラブリアン・コロニー」と呼ばれるべきものであろう。以上を総合すると、サイド2には主にヨーロッパ系の移民コロニーが多いことに気が付かれるだろう。

 しかも、「V時代」の特徴として監督の東ヨーロッパ趣味が挙げられる。もちろんこれは裏事情であるが、地上の地理も東ヨーロッパを横断するようなコースで動いていた。「カサレリア」も「ウーイッグ」も東ヨーロッパに位置している。そしてコロニーの名称である。「アルバニア」も「マケドニア」も東ヨーロッパ(というよりは少し南東に位置するのだが)の国名である。もちろん「ダルマチア(ダルマシア)」もそうである。仮に製作サイドにあって他に地名を挙げる必要があれば「ベーメン(ボヘミア)」「トランシルバニア」「ワラキア」「モルダヴィア」等が考えられるであろう。(「カラブリア」のみはアドリア海を挟んだ対岸、イタリア半島南端部のことである)

 それゆえ思うのだが、「ダルマシアン・コロニー」というコロニーがサイド2に存在するのではなかろうか。しかもそれなりの地位をもって認知されている有数のコロニーとして。そのためもあってスクイード級2番艦にその名を残したのではなかろうか。こう考えると、スクイード級1番艦には「アルバニアン」が内定していたのかもしれない。しかし、現実はリガ・ミリティアとの戦闘で鹵獲され、彼の勢力の旗艦として運用されるという皮肉な結果に終わったことは諸兄もご存知のとおりである。

 来歴不明の艦名についての補足として、ここではもう1例、ジオン公国軽巡洋艦「ムサイ」級を挙げさせてもらおう。「ザンジバル」級が比較的マトモな固有名詞を採用していいるのに対し、「ムサイ」級、「グワジン」級のそれは極めて不可解なネーミングが採用されている。「グワジン」級に関しては既に一部で話題にしていることもあって今回は省かせていただくが、それでは「ムサイ」級はどうであろうか。結論からいうと、おそらく何も考えないで付けられたネーミングだと思われる。しかし、それでは考察を放棄すべきだろうか。このHPの趣旨を振り返ればそれでは納得できない。現状は既に製作者の思惑を越え、U.C.世界全てが考察の対象になっているのである。

 それでは「GUNDAM MILLENNIUM」は「ムサイ」にどのような意味付けを与えるのか。ここでは1つの仮説として「ムサイ=ムーサイ説」を挙げてみよう。「ムーサイ」とは「Musai」と綴り、ギリシア神話に登場する主神ゼウスと記憶の女神ムネモシュケの娘の名である。人間のあらゆる知的活動を司り、芸事の神ともされる。その人数は不明であるが、一般的にはカリオペ、クレイオ、エラト、エウテルペ、メルポメネ、ポリュムニア、タレイア、テルプシコラ、ウラニアの9人姉妹の女神とされる。単数形は「ムーサ」。「ミューズ」と言えば分かり易いだろうか。つまりるところ神話から採った名前である。これは同型艦に「ジークフリート」「ヴァルキューレ」「ニーベルング」「ペールギュント」等、ゲルマン神話や中高ドイツ語文学に由来する艦が存在することから考えるとかなり有力な説ではあるまいか。スペルが一致するのも大きい。「ムサイ」級巡洋艦は神話、中世文学等から艦名を採用したのではないか? というところまで話は広がるのである。

 少し暴走気味になったので、ここらで軽くブレーキをかけておこう。「ムサイ」級には神話名よりもさらに多い一群がある。「ファルメル」「キャメル」「スワメル」「トクメル」「クワメル」「バロメル」「ブルメル」等の「〜メル」系の艦艇がそれである。これらは「グワジン」級の「グワ〜」が頭韻を踏んだのと同様、単に脚韻を踏んだだけであると思われれる。故に、これら全てに神話的な説明を加えることは不可能であり、「ムサイ」級を「神話系」だけで説明することは諦めなければならないのは明白である。ただ、「脚韻系」と同じく「神話系」の艦艇群も存在したことは主張しても良いのではなかろうか。

 ここからさらに検証してみよう。ムサイ級の流れを汲む艦艇に「ムサカ」「ムサック」がある。外形は似ても似付かぬものであるが、設計思想は明らかにその系譜に属する一連の艦艇群である。これらは「脚韻系」ではなく「グワジン」級同様「頭韻系」であるが、問題はそこではない。小説版「Zガンダム」の一節に「ムサカの店」という表現がある。アクシズ内の商店の屋号かと思われるが、この記述は巨大である。この記述に意義を認めた場合、「ムサカ」という固有名詞が存在することになるからである。それが人名を指すものか地名を指すものか、あるいはまったく別のものかは不明だが、さらにそこから逆算して「ムサイ」という人名、地名があったとされても否定できないのである。「ムサイ=人名、地名説」も明確な一つの根拠を持つことになるからである。

 以上、どの説も明確な根拠はなく状況証拠の積み重ねでしかないのだが、何の指針もないよりは遥かに良いであろう。この程度の考察であるが、諸兄のU.C.史研究の一助となれば幸いである。

−付録−
 神話系では、他に
マザーバンガード級「エオス・ニユクス」(ギリシア神話の暁の女神「エーオース」と闇の女神「ニュクス」)、ラー・カイラム級「エイジャックス」(トロイ戦争の英雄。「アイアース」)、サラミス改級「ユリシーズ」(トロイ戦争の英雄)、ザンジバル級「キマイラ」(ギリシア神話に見られる架空の動物)、「アイネイアース」(トロイ戦争の英雄)などがある。

 人名系ではマゼラン級「マゼラン」、「ハル」、マゼラン改級「シャルンホルスト」、コーラル級?「ブキャナン」、サラミス改級「プリンツ・オイゲン」、トラファルガ級「ガルバルディ」、ラー・カイラム級「アドミラル・ティアンム」、「ジャンヌ・ダルク」、L−233系掃海艇「アーレイバーク」、ヘリ空母「アントニオ・ガウディ」、グワジン級「グレートデギン」、ティベ級「グラーフ・ツェッペリン」、ムサイ級「ブレイブ」、ジュピトリス級「コバヤシ丸」などが挙げられよう。

 地名系は多すぎるのでまた後日、U.C.艦艇名鑑発表の折に解説させていただくことにする。


戯言集へもどる