軍籍番号に関する考察


 今回は講談社『モビルスーツバリエーション2 ジオン軍MS・MA編』をテキストに、MS・MAといった兵器を離れ、「軍籍番号」という、普段あまり触れられることのないシステム面について考えてみたい。

 同資料によれば、有名なエースパイロットの軍籍番号は以下の通りである。
エリオット・レム(軍属)    0039年生まれ「MT029668322Z」
ロイ・グリンウッド(地球攻撃軍)0045年生まれ「PM045898156G」
ジェラルド・サカイ(突撃機動軍)0049年生まれ「PM0492378642A」
イアン・グレーデン(地球攻撃軍)0051年生まれ「PM0513384612G」
シン・マツナガ(宇宙攻撃軍)  0055年生まれ「PM055767441S」
ジョニー・ライデン(突撃機動軍)0056年生まれ「PM056330279A」
トーマス・クルツ(地球攻撃軍) 0057年生まれ「EX0570042196G」
シャア・アズナブル(突撃機動軍)0057年生まれ「PM0571977243S」

 まず、「PM」「EX」「MT」の分類は後述するとして、その後に続く3桁に注目したい。この3桁を以降「第1群」と称するが、この第1群は各パイロットの生年とまず100%一致するのである。唯一の例外は0039年生まれのエリオット・レムであるが、今回参考にした『モビルスーツバリエーション2 ジオン軍MS・MA編』は縦書き漢数字表記のため、「○二九」は「○三九」の誤植である可能性も大いにある。また、仮に「029」であったとしても、彼は軍人ではなく、あくまで「佐官待遇の軍属」であり、第一群の発給方法が異なっていたとも考えられる。いずれにせよ、第一群は「生年」と考えてほぼ間違いなかろう。

 それでは次に第一群に続く数字を考えてみたい。
 数字の羅列は、それがどのような意味を持つかによって出現パターンが異なるのは言うまでもないが、例えばそれが1から順に与えられる序数であれば、「1」番を貰った者と「100」番を貰ったものとでは、番号を構成する数字の桁数が異なるはずである。試みに今回の軍籍番号を分析してみると、構成桁数は第1群を除いて6桁と7桁に分けられることがわかる。つまり、第二群以降に序数的に発給される番号が隠されているということである。
 次に発給システムであるが、構成する数字の桁数があらかじめ想定される場合は、無用な桁の変動を防ぎ、一瞥して意味が了解できるよう、桁が足らない部分について「0」を挿入することがよく行われる。UC年号であれば「0079」というように4桁、年月日であれば1月3日を「0103」と表わすように2桁+2桁で表記される。これは、表わしたい数字の実際の桁数に関係なく、どのような場合でも同じ桁数で記入されるということである。

 一方、「0」という数字にも意味を持たせたナンバリングの場合、「0」や「00」も識別機能を持つことになる。ただし、この方法の場合、桁が多くなることで得るものは少ない。0〜9までの数字を組み合わせることによって得られる序列は、一桁増えるごとに10倍に増えることになるからである。例えば、仮にジオンの徴兵システムが軍管区制であったとして、後の連邦軍MSに見られる拠点番号制よろしく「00」が「ズム・シティ」、「02」が「マハル」というように番号を与えていくには、二桁あれば十分なことがわかる。三桁、まして四桁といった大きな桁は必要ないのである。この「組合せ番号制」の特徴は、桁が少なくなる傾向にあると言えよう。

 これを考慮に入れた上で、トーマス・クルツの軍籍番号に注目したい。彼の第一群「057」に続く「00」を見れば、第二群が3桁以上の数字で構成されていることがわかる。「00」と続く以上は、その次に来る数字で初めて意味を持つのであって、意味を成すためには最小で「004」でなくてはならず、最大で「004219」ということになろう。

 また、この第二群が「桁調整制」でなく「組合せ番号制」であった場合、「0」や「00」でも意味を持つことになり、最小で「0」、最大で「004219」ということになる。両者とも最後の「6」を第二群に入れていないが、これは、最後の7桁目を第二群に入れた場合、6桁ナンバーと7桁ナンバーが混在することになり、「桁調整制」でも「組合せ番号制」でもないことになってしまうからである。

 しかし、「0」で始まるナンバーが存在することから考えて、第二群以降が単純な序数でないことは明白であり、どこかに「桁調整制」や「組合せ番号制」が含まれていることは疑い得ない。この考えを推し進めると、最後の桁を1桁だけの群であると仮定した場合、7桁ナンバーの者にある数字が、6桁ナンバーの者にはないということになってしまうのである。扱う桁がこれほど多く、一目見て識別する必要のある軍籍番号に、番号群の有無があるのはどう考えてもおかしい。そこで、最後の桁は単独で存在するのではなく、おそらく2桁以上の組合せであろうと推測できるのである。
 また、このことから、第三群以降が存在することは疑いない。では、どこからが第三群なのだろうか? 

 まず、発給方法が「序数」であり、1から順に与えられていったと仮定し、ほぼ発給順に等しいものと思われる「入隊順」に並べてみよう。
 ロイ・グリンウッドは0078年に事故で妻を失い、これを契機にサイド3へ移住、軍に入隊しているということから考えて、彼の入隊は間違いなく0078年以降であり、おそらく0078年入隊と考えられる。また、開戦直前に入隊した者としてシン・マツナガが挙げられるが、この経緯から彼の入隊も0078年と考えられる。ジェラルド・サカイは0073年入隊組。
 シャア・アズナブルは75年に士官学校に入学し、1年半後に繰り上げ卒業しているが、最初に所属した教導機動大隊を0078年に辞め、その後再び士官学校に戻り、卒業後、改めて宇宙攻撃軍に入隊している。0079年入隊では一年戦争開戦に間に合わないため、正式な入隊は0078年であろう。
 22歳で志願入隊したジョニー・ライデンは0078年組。一年戦争勃発後に亡命入隊したトーマス・クルツは0079年組であろう。「軍に入ったのは早く、後方支援部隊に配属されていた」といわれることから、エースの最古参はイアン・グレーデンであろう。

 以上から、
イアン・グレーデン(00??年)PM0513384612G
ジェラルド・サカイ(0073年)PM0492378642A
ジョニー・ライデン(0078年)PM056330279A
シャア・アズナブル(0078年)PM0571977243S
ロイ・グリンウッド(0078年)PM045898156G
シン・マツナガ  (0078年)PM055767441S
トーマス・クルツ (0079年)EX0570042196G
ほぼ以上のような順序で入隊していることがわかる。

 では第二群の数字はどうであろうか? 入隊順に発給された番号であれば、イアン・グレーデンないしジェラルド・サカイが最も小さく、トーマスクルツが最も大きい数字を貰っていなくてはならない。しかし、実際にはそのような法則性は観察されないのである。
 つまり、第二群には入隊順に付随する、いかなる序列も含まれないことがわかる。必然的に、第二群の数字は「桁数」の固定された、桁変動のないものであることが推測されるのである。

 しかるに、それでは第三群に序列が含まれるかというと、どういう具合かそれも観察できないのである。どこかに序数が含まれていることはまず間違いないのであり、考えられる可能性としては、第二群で何かの分類を規定し、その中での序列を第三群以降で与えているという可能性しか思い浮かばない。もし、推測通りの法則であれば、ジョニー・ライデンの「PM056330279A」を解析した場合「PM056」に継ぐ第二群は「330」か「3302」であることが推定される。そうでなくては発給順に与えられるであろう第三群以降が「0」で始まることになってしまう。しかし、それでは6桁と7桁の差が説明できない。第三群は「279」か「79」でなくてはならないのである。この場合、第二群が「3」1桁である可能性も考えられるが、トーマス・クルツの「EX0570042196G」の第二群が「042…」と「0」から始まることになってしまうのである。両者を過不足なく説明するためには、第二群は最低3桁以上であることが望ましい。

 また、残る第三群が序数であった場合、その枠が2桁ではいかにも心許ない。発給順に番号を与えていったとすると、第二群を同じくする者が99人しか存在できないということはよもやあるまい。ということは、999人まで識別できる3桁は最低限必要な数であろう。

 これまで考察してきた第一群〜第三群をハイフンで分割し、わかり易く表記するとおおよそ以下のようになると思われる。
イアン・グレーデン PM051−338−4612G
ジェラルド・サカイ PM049−237−8642A
ジョニー・ライデン PM056−330−279A
シャア・アズナブル PM057−197−7243S
ロイ・グリンウッド PM045−898−156G
シン・マツナガ   PM055−767−441S
トーマス・クルツ  EX057−004−2196G

 とはいえ、第二群、第三群が何を指すのかが判明したわけではない。軍籍番号の研究は今端緒についたばかりであり、今後は第二群の解明が焦点になるであろう。いずれ、そう簡単に結論の出せる問題ではなかろうし、あるいは永久に結論の出ない問題かもしれない。しかし、挑まずに投げ出すことは研究者の姿勢とは言えまい。そこに謎があるかぎり、それを生み出したのが何らかの意図・システムであるかぎり、解けない謎はないはずである。願わくば、この研究を継いだ、あるいはいっそ覆すような研究が将来なされることを祈念して、今回は一応締めとしよう。


■補遺
 最初に記入される2文字の英字に関しては、サンプルが少ないこともあって明確なことは言えないが、おおよそ「PM」が「Pilot〜」、「MT」が「Mechanic〜」、「EX」が「Exam〜ないしExcept〜」に関連したものであろうことは類推可能である。

 なお、最後のアルファベット1文字は、宇宙攻撃軍「S」、突撃機動軍「A」、地球攻撃軍「G」と色分けでき、それぞれ「Space」「Assault」「Ground」の頭文字であろうことは一目瞭然である。ちなみに、ジオン国防軍が宇宙攻撃軍と突撃機動軍に分割されたのはUC0078年のことであり、さらに地球攻撃軍が正式に加わったのは0079年のことである。それ以前に入隊したものにも当然ながら軍籍番号は与えられていたはずであり、これらの記号が、とりわけ末尾に追加されていることから考えても、国防軍分裂以前はこの最後の記号はなかったものと思われる。おそらく、国軍分裂に際して、改めて追加されたものであろう。問題はシャア・アズナブルの「S」と「突撃機動軍」という記述であるが、彼の場合、最初に入隊したのはキシリアの教導機動大隊でありながら、軍籍の発給は宇宙攻撃軍入隊時である可能性が高い。このため、彼の軍籍番号には「S」が加えられたのだと考えられる。対する「所属」に関しては、最終階級と共に最後の所属である「突撃機動軍」がクレジットされたのだろう。なお、ロイ・グリンウッドは開戦当初、突撃機動軍に所属したが、負傷 後送後に地球攻撃軍に配属されている。その彼が末尾の「G」を頂いていることから考えて、この記号(以下、所属記号)は移籍によって変更されることが推測される。シャア・アズナブルの場合も、最終的には「A」を頂いたことは疑い得ない。なお、エリオット・レムの「Z」は、彼の所属している「Zeonic」社を表わす所属記号であろう。


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