■「ハモンさんの名前」のこと


 ハモンさんの名前なんですけど、もはや「資料によってマチマチ」とかいうレベルじゃないですよね。この際、「サンライズ公式」は置いておくとして、「各資料の整合性を図る」という観点から俺説的に考察してみて、わりと笑える結論に達したんですが、こんなんダメでしょうか?

 まず、「どんな説があるのか?」ですが、「クラウレ・ハモン」「ハモン・クラウレ」「ハモン・ラル」の3つが有名です。それぞれ「言いたいことはわかる」の解釈であり、無碍に否定できない部分も有しております。まず、ファーストネームが「クラウレ」であれば、ランバ・ラルが「ハモン」と呼んでいるのは、いかにも他人行儀です。とても「内縁の妻」を呼ぶ時の雰囲気ではありません。おそらく、こういった観点から「ハモン・クラウレ」「ハモン・ラル」説が出てきたものだと思われます。ですが、これらの説の決定的にツラい点は、おそらくサンライズ公式見解が「ハモンはファーストネームじゃない!」と突っぱねている、ということです。おそらく、説として出てきた時期を考えれば、「ハモン・クラウレ」は「クラウレ・ハモン」を受けて出てきた解釈だと思われます。これに関しては「少しでも公式設定に従おう」という歩み寄りの姿勢をとりつつも、「ハモンが苗字ならやっぱり変」という基本姿勢だけはゆるがせに出来ない、という気骨を感じますね。「ハモン・ラル」に関しては出てきた時期は不明ですが、「内縁の妻」という説の登場以前か、あるいは資料も調べずに、「ラ ンバ・ラルと一緒にいるから奥さんなんだろ?」的な短絡思考で出てきた可能性も高いです。そうして考えた場合、「ハモン・ラル」は本流から少し外して考えた方が良さそうに思います。

 それでは「クラウレ・ハモン」と「ハモン・クラウレ」ですが、小説版Zには「ジャミトフ・ハイマン」を「ハイマン・ジャミトフ」と呼んでいるシーンがあります。最近では「シュタイナー・ハーディー」と「ハーディー・シュタイナー」の混乱が有名ですね。こういった、「どっちが苗字なの?」という疑問に対して、一番まともな解釈は、宇宙世紀には「ファーストネームを先に呼ぶ」とか「ファーストネーム+ファミリーネーム」という公式が崩れている、と考える説でしょう。

 これは、宇宙世紀においては「ファーストネームで呼ぶ、という行為は親友にしか許されない」という、現在の格式ばった法則に縛られない可能性も充分にあるからです。実際に、我々も時に意識せず、「歴史上の偉人をファーストネームで呼ぶ」というムチャをやらかしています。部下が自分の上官を「シャア大佐」とファーストネームで呼ぶのはおかしい!と言ってる人間が、「ナポレオンは〜」などと「呼び捨て」にしていたりします。もちろん彼の本名はナポレオン・ボナパルト(ナポリオーネ・ブォナパルテを改名)であって、「ボナパルト」と呼ぶのが「彼ら流」であるはずです。ということで、名前を呼ぶ時にファーストネームで呼ぶか、ファミリーネームで呼ぶか、に関しては、「現在の常識は相当に崩れており、わりとどちらでも良かった」説を、とりあえず唱えておこうと思います。

 さて、これで終るかと思いきや、実はハモンさんの話に関しては、これで終る気は毛頭ありません。それに、これでは「俺説」ではなくて、ただの「考察」です。俺説の本領発揮はこれからです。

 まず、皆さんは「大草原の小さな家」という小説なりTVドラマなりをご存知でしょうか? これはローラ・インガルス・ワイルダーという女性が19世紀末に実際に体験したことを基に、今世紀前半に出版した自伝小説シリーズです。彼女の存命中に「大きな森の小さな家」「農場の少年」「大草原の小さな家」「プラム川の土手で」「シルバー湖のほとりで」「長い冬」「大草原の小さな町」「この輝かしい日々」が出版されました。また、死後に「はじめの四年間」「わが家への道」が刊行されています。

 まあ、それはさておき、この作者であり主人公の「ローラ」ですが、作品中では親族友人等から、やはり親愛の情を込めて「ローラ」と呼ばれています。これはわかります。「ローラ・インガルス」なんですから。ところが、彼女の恋人であり、後に夫となるアルマンゾ・ワイルダーは、彼女のことを「ベス」と呼びます。どうして「ベス」なんだ?というのが結構長いあいだ謎だったんですが、色々調べていくと、彼女のミドルネームが「エリザベス」であることがわかりました。結婚前の彼女の名前は「ローラ・エリザベス・インガルス」でしたが、作家となった当時(初めての本を出版したのは64歳の時!)は当然人妻でしたから、名前も「ローラ・インガルス・ワイルダー」になっていたわけです。ですから、多くの人名辞典等をみても、彼女は作家として評価されているわけですから、「エリザベス」というミドルネームはなかなか表に出てくることがなかったんですね。

 そこで思い付いたんですが、例えばベル・スタアと並んで有名な女ガンマン「カラミティ・ジェーン」の本名が「マーサ・ジェーン・キャナリー」であり、彼女に親愛の情をこめて「ジェーン」と呼んだことを思えば、身近な人物に親近感をもって語りかける時の「呼び掛け」はミドルネームで良いものと思われます。ですが、逆に「まちがってもファミリーネームでは呼ばない」ということにも注目したいところです。この両者を考慮に入れて「ハモン」という呼び掛けを考えた場合、これがミドルネームであってはならない理由、というのは思い浮かびません。逆にファミリーネーム、というのではやはり腑に落ちないのです。つまり、「クラウレ・ハモン」の「クラウレ」がファーストネームであり、「ハモン」がミドルネームだったらどうか?、という解釈です。

 こう解釈すると、ひとつ良いことがあります。つまり、「ファミリーネームをさらに付け加える余地」が出てくるのです。ここから先は「俺説がスパイラルブースト」ですが、彼女の本名が「クラウレ・ハモン・クラウレ」という名前だったとしたらどうでしょう? この段階で、「クラウレ・ハモン」説も「ハモン・クラウレ」説もクリアーできますし、第一、富野監督の好きそうなネーミングでしょう? さらに、最後の決戦に臨むランバ・ラルが少ないながらも自分の遺産や遺族年金を彼女に相続させるために、密かに入籍していたのかもしれません。または、戸籍が散逸していまって確認はできませんが、「そういう説もある」としましょう。そうすると、彼女の人生のほとんどは「クラウレ・ハモン・クラウレ」ですが、「最後の数日」並びに「死んだその時」の名前は「クラウレ・ハモン・ラル」であっても問題はないように思います。以上から、「クラウレ・ハモン」「ハモン・クラウレ」「ハモン・ラル」の3説は全て説明できることになります。
 「ちょっと受入れ難い説」というか、完全に「俺説」なんですが、どんなもんでしょうか? 「もっと良い説があるよ」という方は、ぜひ披露してみてください。


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