「カッパ問答」のこと


RX−183(連邦)
MSK−009(カラバ)
MSA−014(エゥーゴ)
と三つの名を持つ機体、「κガンダム」は型式番号研究家にとっては難しいテーマであり、これまであまり考察の対象とされることはなかった。だが、近年わずかずつではあるが、開発当時の原資料が発見されつつあり、おぼろげながらこの謎の機体の全貌が明らかになりつつある。以下は、こうした限られた資料から推測される本機の開発経緯であり、必ずしも文献資料で確認できるものではないが、仮説としてはかなりの謎を解明することのできる現在最も信頼できるものと信じている。それでは「κガンダム」を取り巻く謎の幾つかを順を追って見ていくこととしよう。

<κガンダム>
 後に「κガンダム」と呼ばれることとなる可変MSは、アナハイム・プラントIIが連邦軍に対して企画を提出し、これを参考にORX−005「ギャプラン」が設計された後、ムラサメ研究所に開発が移管されたことになっている。しかし、たらい回しの末、実機が完成したかどうかも定かではない。また、「RX−183」という型式番号自体も謎である。開発拠点番号「18」は南米のジャブロー基地であり、ギャプラン製造に関わったとみられるオーガスタ/オークランドとは明らかに別拠点である。オーガスタはともかく、オークランドはジャブローからはかなりの距離であり、とてもジャブローと密接な交流があったとは考えられない。当初、アナハイムからの企画書を受け付けたのが開発拠点番号「18」のジャブロー基地で、ORX−005に対しては直接の源流となったわけではなく、「単に影響を与えた」だけだったということであろうか。

 あるいは、ジャブローが絡んでくるのはグリプス戦争終結と前後する連邦軍再編期、ということも考えられる。完全に再編が済んだあかつきには開発拠点番号は廃止されているであろうし、開発番号「183」はRMS−188MDの「188」を考えると明らかに数字が「若過ぎ」である。やはり、設計当時からジャブローが関わっていたとする方が妥当な解釈であろう。

<カラバ・ナンバー>
 次に、カラバ・ナンバーのMSK−009だが、これは型式番号としてはMSK−008「ディジェ」の次に位置する。ところが、これも問題の一つである。MSK−100S「陸戦用百式改」、MSK(A)−005K「ガンキャノン・ディテクター」、MSK(A)−006A1「Zプラス」、と採用されてきたカラバのMS群だが、これらの型式番号がMSK−001から順を追って採用されていったのか、それとも単にエゥーゴの型式番号に「K」を挿入しただけなのか、完全に解明されてはいないのである。純粋にカラバという組織が独立性を持っているなら、装備にも独自に採用番号を与えていくのが当然だが、MSK−005KやMSZ−006A1など、エゥーゴでの型式番号と基本的には同じなのである。それでは「基本的にエゥーゴ・ナンバーに準じる」が、法則なのであろうか。いや、そうとばかりは言えまい。MSK−008はカラバでしか採用されていないからだ。また、これに対応するべきMSZ−008はエゥーゴでは「ZII」という全く別の機体によって占められているのである。やはり、エゥーゴ・ナンバーとの符号は「基本的に」偶然であって、独自にナンバーを与えて いたと考えるべきであろう。そのカラバの、おそらくは最後のナンバーを持つ機体が、この「κガンダム」だったのではなかろうか。しかし、ミノフスキークラフト搭載の難航、さらに開発経費の高騰、連邦軍の再編、とめまぐるしく変わる状況のなか、ついには開発計画自体が廃案とされたであろうと考えられる。

 さて、「MSK」ナンバーは「カラバが開発した機体」にだけ与えられるのか、あるいは「カラバが採用した機体全て」に与えられるのだろうか? 資料を紐解いてみたところで、「型式番号の法則」と銘打った記事でも、カラバのそれについて触れられることはまずないと言ってよい。そこで着目したのが「ネモIII」や「ガンキャノン・ディテクター」の型式番号として、ふだんは「誤植」として処理されてしまうことの多い「MSK」ナンバーである。両機とも、多くの資料で「MSA−004K」「MSA−005K」として紹介されているが、若干の資料中に「MSK−004K」「MSK−005K」の名が見られる。もちろん、開発はエゥーゴ/アナハイムであり、筆者としても「MSA」のナンバーを否定するものではない。そうではなくて、「MSA−004K」をカラバが採用した場合、これがカラバで4番目の機体なら「MSK−004K」になるのではないか、ということである。もちろん、「MSA−004K」がカラバで5番目の機体だった場合、「MSK−005K」となる。「MSA−014」が「MSK−009」となる以上は、「同じ番号」説は否定されなくてはならな いのである。もっとも、「採用順」説の場合、「MSK−100S」が問題となるが、これもエゥーゴと同様に、MSK−079、MSK−086(仮定の型式番号)などという桁の大きいMSを運用していたカラバが、番号の桁を引き戻すために、たまたま採用した「MSK−100S」で下2桁を切り捨てて「MSK−001S」としたのだと考えれば、それほど問題とはなるまい。

<MSA−014>
 おそらく、アナハイム・プラントIIで与えられたネーミングが、この「MSA−014」だと思われるが、実はいろいろ問題があるのである。まず、単純に「番号が大きい」ということが挙げられよう。この番号なら、おそらくMSZ−013「量産型ZZ」より後に開発されていなくてはならないと思われる。これに対してORX−005「ギャプラン」以前に計画があったのならば、それはMSN−00100「百式」よりも前であろうし、場合によってはRMS−099「リック・ディアス」よりも前になろうかと思われる。「リック・ディアス」より前の機体であれば、そもそもギリシア文字を冠すること自体有り得ないことである。そのような機体に「014」という数字はいかにも「大きい」。
 考えられる説としては、「2機の戦闘機に分離合体するミノフスキークラフト搭載の可変MS」という素案を提出したのが「ギャプラン以前」というだけで、同じ設計局が実機を製造するのは「エゥーゴが連邦軍を掌握してからのこと」だった、というところであろうか? それならばMSZ−013「量産型ZZ」の次はちょうど良い位置であり、それ以外にはジャブローやムラサメ研究所の開発していた機体がアナハイム・ガンダムとして製作される理由が見つからないのである。

 「GPシリーズなど連邦軍向けに試作機を開発していたアナハイム社から、UC0083年、連邦軍に対して極めて先進的なMSの素案が提示された。2機の戦闘機にも分離可能なこの機体は、巡航形態として航空機型を採用していたが、その設計にはRX−78Eと呼ばれる試作MSの開発スタッフが多く参加していたという。この素案をもとにジャブローが設計を進めたのが、「RX−183」、後のκガンダムである。しかし、ミノフスキー・クラフトの小型化に躓き、この方面で実績のあるムラサメ研究所に開発が移管されることとなる。結局、同研究所でもミノフスキー・クラフトのMSサイズへの搭載は実現せず、クラフト未搭載の試作機は製作が中断されたままハンガー内に放置されていた。内乱の終結によってムラサメ研究所は実質的に瓦解し、多くの技術者が流出したが、同機の開発スタッフは素案の出所であるアナハイム・プラントIIへ招聘され、「MSA−014」として開発が引き継がれることとなった。初のミノフスキー・クラフト搭載MSの完成を目指すアナハイムであったが、技術的な限界からMSサイズへの搭載は不可能と判断される。さらに、当時、高性能MSの開発はM SZ−010系を中心に集約されつつあり、これ以上の開発続行は実質的に不可能となった。この状況を打開したのが大気圏内用高性能MSを欲するカラバである。同様の理由により、別プラントではMSZ−006系の最上級発展機「MSZ−006D」も開発中であったが、この対抗機種として選定されたのである。技術的に極めて困難であり、加えて価格高騰の原因となるミノフスキー・クラフトは搭載が見送られ、「大気圏内の高速フェリー能力と通常航空機と同等以上の空戦性能を持たせること」が主たる要求項目とされた。新たにカラバから開発予算が下り、プロジェクトも「MSK−009」と名称を変更したが、実機の完成を目前にしてカラバは実質的な指導者を失うこととなる。さらに連邦への帰順、第一次ネオジオン戦役の終結と、カラバをとりまく急激な展開は、もはや高性能新型機を必要としなくなっていた。結局、試作機開発の契約はキャンセルされ、ほぼ完成していた実機もその後スクラップとされた。」
といったところであろうか。

<οガンダムの謎>
 ちなみに、問題の「κガンダム」を調べる必要から過去の資料を丹念にあたっていたところ、ある資料中(『モデルグラフィックス』通巻36号/大日本絵画)に「οガンダム」という名が出てくる。もちろん、読みは「オミクロン・ガンダム」である。
RMS-099「γ(ガンマ)ガンダム/リックディアス」
MSN-001「δ(デルタ)ガンダム/百式」
MS?-???「ε(エプシロン)ガンダム」
MSZ-006「ζ(ゼータ)ガンダム」
MSZ-007「η(エータ)ガンダム/レイピア」
MSZ-010「θ(シータ)ガンダム/ZZ」
MSA-0011「ι(イオタ)ガンダム/スペリオル」
MSA-014「κ(カッパ)ガンダム/シグマ」
MSA-0012「λ(ラムダ)ガンダム」
RX-90「μ(ミュー)ガンダム」
RX-93「ν(ニュー)ガンダム」
RX-105「ξ(クスィー)ガンダム」
RX-???「ο(オミクロン)ガンダム」
という流れになる。
「οガンダム」はアナハイム・ガンダムとしては、おそらく最後の機体になろうかと思われるが、いかんせん資料が無さ過ぎる。この機体に関して何か他に情報はないものか、皆様のご意見・アドヴァイスを頂きたい。


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