−まさに逆転の発想− 近藤版大気圏内用ZETAについてのたわごと vol.1


 MSZ-006、いわゆる「Zガンダム」のウェイブ・ライダー形態に対し、漫画家近藤和久氏の諸作品に登場するA/FMSZ-007II「ゼータ」は、その上下が真逆であるというとんでもない特徴を持つ。これには慣れないとものすごい違和感があるもので、かく言う私も近藤作品を味わうに際し「のどに刺さった魚の小骨」のような感覚を長い間抱いてきた。

 それはそうだろう。普通、自分の身の回りに「さしたる理由もないのに上下逆にして運行している乗り物」があるという人はまずいないはずである。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」とはよく言ったもので、近藤氏の作品に対し、どうしても馴染めず拒否反応を示してしまう設定の東西横綱が、この「逆さまZ」と「巨大ZZ」なのである(少なくとも自分にとっては…)。

 しかし、人間の感覚というものは存外当てにならないものである。先入観で「可能・不可能」、「現実的・非現実的」を判断していることがままあり、そこに明確な理由付けなど存在していないにも関わらず、「あり得ない」と勝手に判断して思い込んでいることがあるのである。私も、ご多分に漏れずそうであったのだが、ある日「ある乗り物」に思い至った瞬間、もつれ合ったゴルディアスの結び目が、スパッと解けるような感覚に見舞われ、目からウロコが落ちてしまったのである。

 その「乗り物」とは?

 いや、あまり有名な乗り物ではないのだが、その名を「X-34」といい、NASAで検討されていたものの、とっくの昔に廃案になったスペース・プレーンである。X-34には時期によっていくつかのプランがあり、単発のX-34A、双発のX-34Bなども計画されたと言われているが、私が注目したのは前世紀の末頃、オービタル・サイエンスとロックウェルによって計画された1プランである。手元の資料で確認できるのはデルタ出版から1998年に発行された『スーパーソニック・シリーズ1 音速突破 半世紀』に掲載された数枚の完成予想図だけであり、文林堂の『世界の傑作機No.67 X-プレーンズ』には別バージョンの図版が掲載されている。さて、それではお手元に同誌のある方、ぜひ、そのページを開いてみていただきたい。ちなみに114ページである。

▲X-34は母機から投下された後、ロケットエンジンを点火し、3分間運転される。
▲ブースターが横転して、使い捨て式軌道衛星とペイロードを放出する。
▲180kmほどの高度に達した後、ブースターは背面のまま大気圏に再突入する。
▲ブースターは発射地点から1,500kmほど離れた滑走路に、航空機と同じように車輪を出して着陸し、再使用することができる。

 どうであろうか? なお、ここでいう「ブースター」とは、ペイロードに対するブースターであって、概念的にはスペース・プレーンそのものを指している。それが大気圏離脱時と再突入時で「上下逆さま」になるのである。なんということであろう。現実か、あるいは極めてそれに近い真剣さで、このような「ひっくり返り」式スペース・プレーンの設計が真面目に検討されていたのである。確かに離着陸や観測、通信等に必要なメカニズムと、大気圏突入に必要なメカニズムには相容れない部分があろう。それを無理に同じ面に配置しなくても、姿勢制御さえ安全確実にこなせるのであれば、突入面と通常飛行面を完全に分離した方が、何かと便利なことも多いはずである。単に着陸脚や観測・通信機器などのための開口部を突入面に求めないだけでも、設計に有利さはある。

 …となれば…

 ここで逆転の発想。「近藤版Z」ことA/FMSZ-007IIがひっくり返って飛んでいるのではなく、実は「普通のZ」の方が、ひっくり返って「裏返し」に飛んでいるのではないか!?

 何は無くとも「大気圏突入」というムチャを前提として開発された「Zガンダム」の方こそ、無理をしてウェイブ・ライダー形態をとっているのであって、よくよく考えてみればMSZ-010「ZZガンダム」も、RGZ-91「リ・ガズィ」も、主翼それ自体は高翼配置を採用している。となると、アナハイム内において大気圏内専用ゼータが計画された際、Zガンダムが採用した苦肉の策、「裏返し」を普通どおり元に戻す設計案も検討されたのではないか? それこそが非変形量産型のあとを受けた変形タイプのMSZ-007系であり、「ゼータII」というひとつのカテゴリーを形成するまでに至る、一連の「裏返しZ」系列だったのではないか?

 妄想は果てしなく広がる。
 先ほど低翼配置と高翼配置の違いを引き合いに出した。次は主機にあたるヒザである。いわゆる普通の「Zガンダム」のヒザは飛行時上方に折りたたまれるのに対し、当たり前のことだが大気圏内用のヒザは、その反対…下に折りたたまれる。では、RGZ-91「リ・ガズィ」はどうだろうか? 皆まで言う必要もあるまい。主翼は高翼配置、スネは下方折り曲げ式である。さて、RGZ-91は、MSZ-006各型式とA/FMSZ-007、どちらに似ているであろうか?

 …と、このようにこの話は一度語り出すと止まらない。とてものこと、一度のウンチクで終わるはずがない。
ということで、この続きは、またいつか日を改めて…ということにしよう。