S−14Cのボックスアートから分かる事
(用意するもの:1/60、1/144両キット・ボックスアート)


トーマス・クルツのMS−14C装備ですが、この塗装って面白いですよね。

 まず、腕に黄/赤のRVGバンド似の帯を巻いています。ちなみにRVGバンド(帝国防衛部隊識別帯)というのはドイツ空軍が大戦末期に採用した航空団の識別塗装で、黄/赤はFw190D、Ta152H装備の301戦闘航空団が使用していました。

 この「クルツ機の帯」がそのままRVGバンドに相当するものなのかどうかは不明ですが、少なくとも小田雅弘氏や開田裕治氏がRVGバンドを知らないはずがないので、とりあえずそういう意味に取るとしましょう。すると、このMS−14C部隊、1/144キットのボックスアートには同時に3機(下の2機は巻いていない!)写っていますから、最低3機はRVGバンドを巻いていたことになります。「クルツ機と合せて4機」としたいところですが、このうち、グレー塗装の機番「58」はトーマス・クルツ機じゃないでしょうか? 彼の機体はスプリンター迷彩が有名ですが、「機番が同じこと」、「スペードを描き込んでいること」、「同時に写っている写真がないこと」等から、同一機である可能性があります。どちらの塗装が先なのかはわかりませんが、「コレヒドールでテスト中のもの」とされる写真ではグレー塗装なのですから、時期的に考えて、当初はこのグレー系迷彩だったのでしょう。スプリンター迷彩はア・バオア・クー戦時のものなんでしょうね。ちなみに、機番「53」もスペードを記入しており、べつに「クルツのパーソナル・マーク」というわけではなかったことがわか ります。

 また、左腕のRVG似バンドに重ねて記入された、幹部記号と思しきマーキングが気になります。これをドイツ軍と同じシステムと仮定して解釈すると「第II飛行隊司令官」ということになります。第二次大戦当時の「飛行隊」というと、3個中隊規模ですから、ジオン軍のMS編成でいくと「9機+本部付3機=12機」ということになろうかと思います。ご存知のとおり、キマイラは24機編成ですから、第I飛行隊司令官がライデン、第II飛行隊司令官がクルツだったのでしょうか? この「幹部記号」は「何かよくわかんないけど格好いいよね」的に使われて「わけわかんなくなってしまった悲しいアイテム」なんですが、じっくり考察するといろいろ面白いことがわかりそうですね。

 次に、画面右下に写っている赤いMS−14Bが気になります。この機体の塗装は、胸郭ブロックは暗色ですが、上腕はピンクで塗られています。通常知られている「上腕の黒い」ライデン機とは塗装が異なり、新たな塗装バリエーションの可能性があります。もっとも、彼の乗機は機番「010」号と「011」号の最低2機が判明しており(「402」号に関してははMS−06R−2時の機番であり、間違いの可能性がある)、塗装も何度か塗り替えられたことが判明していますから、取りたてて騒ぐほどのものではありませんが、「キマイラ」研究者にとっては貴重な資料だと思われます。まったく別人の機体である可能性も否定できませんが。

 MS−14Cの塗装はグリーン系が主であるような記述(1/144キット解説参照)がありますが、全15機のうち、最低4機はグレー系であったことがわかります。

 キマイラの24機ですが、ライデンの「010」「011」、クルツの「58」、その僚機「53」、「27」等が判明しています。桁が異なることもあり、同じシステムで付けられた機番ではないかもしれませんが、何かの参考にはなるかもしれません。2桁のものに関しては、頭の「0」を省いているとも考えられますから、解釈によっては同じシステムの可能性も残しています。

 今回はこの程度ですが、「塗装から読み取れる情報」というのは結構膨大なものです。好評ならば続けていこうと思いますので、もしよかったら感想ください。


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