「アッガイ」のこと


 前々から疑問に思っていたのだが、MSM−04「アッガイ」(以下アッガイ)のクロー及び武装はどうなっているのだろう?

 最近の資料では105mmバルカン×4、ロケット弾ランチャー×6、メガ粒子砲×1が主流だが、まずロケット弾ランチャーはどこに装備されているのか? 「右腕の主武装=メガ粒子砲」説を採るならば左腕に6連装ロケット弾ランチャーを装備しているべきだろうが、「08小隊版」では設定画からして左腕もクローとして描かれている。

 そもそもアッガイはメガ粒子砲を装備しているのか?『ガンダムセンチュリー』では右腕の主武装は240mmロケット砲ということになっている。これをただちに公式として扱うわけにはいかないが、本文と表の食い違うことで有名なEBシリーズの『MS大図鑑 一年戦争編』でも、本文中にはメガ粒子砲の記述があるのに対し、スペック一覧表にそのような記述はない。(ゴッグ、ズゴック、ゾックにはその記述があるにもかかわらず、である)

 本来、「ロケット弾ランチャー(ないしロケット砲)」という設定は「右腕の主武装はメガ粒子砲ではない」という発想から出たものであろう。これに対して「メガ粒子砲」説も根強く、そもそもこの2説間で混乱が始まったものと思われる。この混乱の原因を承知しておればそれなりに慎重な記述に止めることも可能であったろうが、「孫引きの孫引き…」というガンダム業界の悪いクセから、各文献が勝手に独自の解釈を施し、もはや収拾不可能なほどに事態は混乱してしまったのである。

 「右腕の主武装がメガ粒子砲なら、このロケット弾ランチャーという設定はどうなるのだ?」「左腕の6基の穴がどうもそれらしい」「ではその線でいこう」的なやりとりがあったかどうかはともかく、現実の問題はまさにここが焦点である。こうなれば、必然的に左腕にクローはないことになり、「クロー右腕オンリー」説の出来上がりである。これに対し、「右腕主武装ロケット弾ランチャー」説を採って「メガ粒子砲」説を否定すれば「両腕クロー」説となる。さらに、どこまで信頼に足るかは疑問だが講談社のストーリーブック等、資料によってはビーム砲×1、ロケット砲×1という記述もあり、混乱はますます深まる一方である。

 これらの混乱を好意的に解釈するならば、もはや「武装別にサブタイプがあった」とする他はあるまい。現実にMS−07「グフ」ではほぼ武装別でサブタイプが分類されており、あながち突飛な分類方法というわけでもないだろう。
 アッガイの実戦型は「MSM−04F」シリーズであり、TV・映画に登場した機体はF型であることは疑いない。となれば60機前後製造されたとされるこのF型のなかで
右腕(メガ粒子砲×1+クロー)、左腕(ロケット弾ランチャー×6)
右腕(メガ粒子砲×1+クロー)、左腕(ロケット弾ランチャー×1+クロー?)
右腕(ロケット弾ランチャー×1+クロー)、左腕(クロー)
の最低3種のサブタイプがあったと思われる。これらに加え、問題の「08小隊版」を純正型とするならば、
右腕(?+クロー)、左腕(バルカン×1?+クロー)
という型が存在したことになる。「08小隊版」に関しては『機動戦士ガンダム/第08MS小隊フィルムコミック 7巻』で「105mmバルカン×4、ロケット弾ランチャー×6」ということになっており、バルカン云々についての記述はないが、映像本編では左腕からメガ粒子砲ともロケット弾とも思えない小口径弾をフルオートで発射しており、左腕に武装のない設定画とは明らかに異なるものである。強引にこじ付ければ、『テレビマガジンデラックス6 TV版 機動戦士ガンダムストーリーブック3』(講談社 1981)に見られる両腕武装機(ビーム×1、ロケット砲×1)に連なる型(ないし同型機)ともとれなくはない。そうなれば
右腕(メガ粒子砲×1+クロー)、左腕(バルカン×1+クロー)
ということになろうか。

 なお、『機動戦士ガンダムRPG』(ホビージャパン 1997)では
右腕(105mmマシンガン×1+クロー)、左腕(ロケットランチャー)
という困った説を提唱している。が、これもこじ付ければ「08小隊版」の解釈に利用できないこともない。なによりMSM−04の腕部武装として「マシンガン」を挙げているのは他ではみられない特徴である。それが認められるかどうかはともかく、「08小隊版」では左腕にこれを装備していたという解釈も成り立つのである。

 サブタイプを以上のように分類し、仮に重武装化の方向で発展したとすると
F1型−右腕(240mmロケット弾ランチャー×1+クロー)、左腕(クロー)
F2型−右腕(105mm機関砲×1+クロー)、左腕(240oロケット弾ランチャー×6)
F3型−右腕(メガ粒子砲×1+クロー)、左腕(105o機関砲×1+クロー)
F4型−右腕(メガ粒子砲×1+クロー)、左腕(240oロケット弾ランチャー×1+クロー)
F5型−右腕(メガ粒子砲×1+クロー)、左腕(240oロケット弾ランチャー×6)
の順となろうか。

 便宜上これらをMSM−04F1〜F5とするが、実際にはそれほど単純な問題ではないだろう。大きく「メガ粒子砲装備型」と「未装備型」に分類し、それぞれにサブタイプを設けた方が適当かもしれない。本来ならメガ粒子砲の有無で型(アルファベット別)を分け、それぞれに序数記号(数字別)を加えて分類すべきであろうが、F型に続くべきG型はMSM−04G「ジュアッグ」に既に与えられており、以降の型は基本設計からして大きく異なる。今後サンライズが「F型」に相当する「型」を表明するとも思えず、根拠もなしに勝手に型番号まで論を展開するわけにはいかず、今回はこのあたりが限界だろう。

 なお、本論では最終的に「ロケット砲」「ロケットランチャー」「ロケット弾ランチャー」は「240mmロケット弾ランチャー」に、「バルカン」「マシンガン」は「105mm機関砲」にそれぞれ統一している。ロケット弾に関しては、その口径にまで言及した資料が「センチュリー」の「240mm」しかなく、これがMSM−07「ズゴック」の頭部ロケット弾及びMS−06M「水中用ザク」のM5−Gサブロック、M8ロケット弾ポッドと同径で説得力もあるため、この数値を採用した。おそらく製造メーカーは「ブラウニー」と思われるが確証はない。なおブラウニーM8には180mmという異説もあることをお断りしておく。

 また、機関砲に関しては105mmもあるものを正式に「銃」として分類するのは問題があるためである。105mm、120mmの両「ザクマシンガン」は飽くまで「愛称」であり、実際には「砲」である。UC時代では何mmからを「砲」と呼ぶのか不明だが、30mm以上は「砲」と呼んだ方が良いのではなかろうか。この辺りはいままで曖昧にされてきた点であるが、これはおそらく銃器マニアはどうしてもMS用火器を「銃」として認識するのに対し、AFV、航空機マニアは「砲」として認識するためであろう。どちらかに統一する動きがでれば、もう一方からの反発は必至だが、シーンを収束させたいのであれば、なんらかのガイドラインを制定すべきではなかろうか。なお、「センチュリー」では頭部機関砲を「30t」としているが、少なくとも頭部機関砲は30tではあるまい(笑)「30mm」と解釈するのが妥当だろうが、今回はこの説は割愛したい。

 なお、「サブロック(Subroc)」とはアメリカ海軍のUUM−44Aミサイルの固有名称である。果たして「バルカン」等と同じく普通名詞化したものともとれるが、知っていて使用するのと知らないで使用するのでは記述もおのずと違ってくるものと思い、蛇足ながら付け加えさせていただく。なお、「型式番号の鬼」として最後の最後に米軍のものであるがミサイルの型式番号命名法を紹介しよう。

 米軍におけるミサイルの正式番号は3桁の英文字と開発順の連続数字で表す。この英文字にはそれぞれ意味があり、1文字目は「発射モード及び環境」、2文字目は「使命・役割」、3文字目は「運搬手段」を示す。
1文字目
A−航空機搭載または空中発射
B−多面(複数のプラットフォーム)
C−棺桶(コフィン)式またはコンテナ
F−個人または歩兵の携行式
G−滑走路
H−サイロ収納、地上発射
L−サイロ収納、サイロ発射
M−移動式
P−ソフト発射台
R−海上発射または艦船発射
U−海中発射または潜水艦発射

2文字目
D−デコイ
E−電子兵器または特殊電子装置
G−地上攻撃
I−空中迎撃
Q−標的機
T−訓練
U−海中攻撃または潜水艦攻撃
W−気象

3文字目
B−ブースター
M−ミサイル
N−プローブ(宇宙探査機:人工衛星)
R−ロケット(誘導なし)
S−人工衛星

また、これらの3文字の前に「状態接頭コード」と呼ばれる記号が付くことがあり、以下の例が知られている。
C−静止テスト中(エンジンの地上テストなど)
D−ダミー
J−特殊テスト中、一時的
M−保守中
N−特殊テスト中、恒久的
X−実験中
Y−プロトタイプ(原形)
Z−計画中、提案中

以上、これら3文字(4文字)の後にハイフンを付け、次に連続番号をふることで正式番号としている。この連続番号は3文字の内容にかかわらず一貫番号となっている。故に、「サブロック」はU(水中発射)U(海中攻撃)M(ミサイル)−44Aとなる。
 ジオン軍の場合は単純に「ミサイル」を表す「M」に連続番号をふっていたと思われ、こうした知識は直接には役に立たないかもしれないが、状態接頭コードなどはMSの型式番号にもよく使用されるものであり、何かの参考になれば幸いである。


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