「ネーミング」のことver.1.01


 今回はMSのネーミングについて戯言を述べさせていただく。
 とはいえ、今回のそれは某掲示板を騒がせている「語源シリーズ」とは少しニュアンスが異なる。高尚な「語源探求シリーズ」に比べれば、もっと俗っぽく、悪く言えば「こじ付け」の部類に入る思考法であると言えよう。それ故、かなり下世話な話となるが、それでも実在の兵器には意外とこういうネーミングが多用されており、むしろ単語の意味を吟味したネーミングの方が希なことを鑑みれば、UC世界といえど、同じ人類が営む社会であるからには、MSをはじめとするUC世界の事物もこのあたりのセンスが用いられていると考えてもよいのではなかろうか。

 UC世界を総合的に理解していこうとする「GUNDAM MILLENNIUM」の理念からすれば、当世界の文化史を復元するうえで「語源探求」は確かに重要な作業ではある。しかしながら、今回の「こじ付け系ネーミング」考察も、単なる「お遊び」に終わらず、今後、UC世界のMS観を再構築していく上で必要な視点の一つになる可能性を秘めていると筆者は考える。以下の考察がUC世界研究に新たな視座を示さん事を願い、今回の序とさせていただく。


1.「シリーズ名」
 実在の兵器、特に軍用機やAFV(装甲戦闘車両)、軍艦、発動機などにはそれなりの命名法則があるのはご存知のことと思う。敢えていまさら言うまでもないことだが、航空機では各航空機メーカーで独自のシリーズ名を持っているものが多く、ロッキード社は天文系、カーチス社は鳥系、フェアリー社は魚系…と、各社各様の独自路線を展開している。
 AFVではこうした例は少ないが、あまりにも有名なシャーマン戦車をはじめ、第二次大戦中の米軍戦車(駆逐戦車含む)にはリー、グラント、シャーマン、ジャクソンなど南北戦争の英雄たちの名が与えられていた(戦後の車両にもシェリダン等がある)。
 また、軍艦のそれは厳密なもので戦艦、巡洋艦、駆逐艦等それぞれに規格があり、地名、人名などを採用している国が多い。あまり知られていないが、各種エンジンにもシリーズ名があり、ロールスロイスのエンジンは鳥の名前から採られている。

 UC世界でこうしたシリーズ名を採用している例としては、航空機メーカーのハービック社が挙げられる。
●FF−S3「セイバーフィッシュ」
「Saberfish」とは太刀魚(タチウオ)のことである。特異な姿をしたスズキ目の海魚で全長は1.5mにも達する。おそらくフェアリー社の青物系雷撃機(ソードフィッシュ>アルバコア>バラクーダ>スピアフィッシュ…)に着想を得たネーミングであろう。フェアリー社の雷撃機は、メカジキ(Swordfish)、ビンナガマグロ(Albacor)、バラクーダ(Balacuda)、クロカジキ(Spearfish)といった外洋系の魚の名前を採用していた。

●FF−6「TINコッド」
 実際に「ティンコッド」と呼ばれる魚がいるらしい。北米産ではないかという情報が入っているが、詳細は調査中である。いずれ鱈科の魚であろうが、そこから採った名であることは疑いあるまい。

●FF−S4「ダガーフィッシュ」
 明確にハービック系の機体という設定はないと思うが、グリプス戦争期の連邦軍用機のシェアはほとんどアナハイム・ハービック(正式な社名ではない)が握っていると思われ、アナハイム製MSA−0011用コアファイターFF−08GB(FXA−08GB)と一部アビオニクスを共有している点から考えてまず間違いあるまい。「ダガーフィッシュ」という魚も実在するらしい。目下調査中である。

 以上のように「魚系」の名前が多いことに気が付く。このうち「ダガーフィッシュ」に関しては、ハービック社の吸収合併以降の産物であり、かつ同社の製品という裏付けもないわけではあるが、ネーミングセンスから考えてもおそらく間違いはあるまい。この他、FF−08WR「ワイバーン(飛竜)」、X−08WR「ミスルトゥ(やどりぎ?)」、FE−08WR「クインビー(女王蜂)」などがあるが、これらは「ワイバーン」を除き、その特異な形状から名づけられたものと思われる。意外とウエイブライダーであるFF−08WRもその機能から「ワイバーン(飛竜=有翼竜)」と命名されたもので、シリーズ名というより突発的なネーミングなのかも知れない。


2.「サブタイプ由来」
 また、サブタイプの型式番号に着目し、そこから付けられたネーミングもある。
有名なものではドイツのメッサーシュミットBf109などはB型を「バーサ」、C型を「クララ(Clara)」、D型を「ドーラ(Dora)」、E型を「エミール(Emil)」、F型を「フリッツ(Fritz)」G型を「グスタフ(Gustav)」と呼んだことが知られている。オフィシャルではないが、近藤版「Zグスタフ」の「グスタフ」は多分にこのBf109Gを意識しているものと思われる。ドイツ機としてはFw190Dのニックネーム「ドーラ(Dora)」もやはり「D型」にちなんだものである。

 こうした例としては、断言はできないがRGM−79Q「ジム・クゥエル」が挙げられよう。「Quell」とは「〜をおさえる・静める」という意味であり、コロニー鎮圧用の機体にふさわしいネーミングではあるが、やはりRGM−79Qのサブタイプが「Q」型であることから付けられたニックネームだと思われる。スナイパーカスタムの「SC」やスナイパーIIの「SP」などは戦術用途が先に決められ、そこから型式を与えられたとも考えられるが、鶏が先か卵が先か?というような話ではある。おそらく「SC」や「SP」、また「L(LA)」など、一年戦争中の機体は平行して数機種が設計されたために型式に「前後関係」がなく、故に型式番号に脈略がないものと考えられる。これに対し、戦後の機体は特殊な機体を除いて純粋進化を続けていったため、一部でその前後関係が確認できる。N>Q>Rと最後期の機体は明らかに順を追って開発されていると考えられよう。このうち「N」型は、その性格上、「ジム・カスタム」の名が与えられ、「R」型はジム・シリーズの新ベーシックとして「ジムU」を名乗ったため、結果的には「Q」型の「Qにちなんだ名前」という路線を継ぐ機体 は現れなかった。(筆者は以上のように解釈したが、HJ誌などでは「クゥエル」のスペルを「Quel」としており、またぞろ混乱の気配がする。この問題は今後の研究課題としておこう。)

 しかし、敵対するジオン軍のMSにもこうしたネーミングが見られるのは偶然というべきだろうか? MS−09Fのニックネームは「ドム・フュンフ(Funf)」である。「funf」は「5」という意味だが、アルファベットの「F」は別に5番目の文字ではない。おそらくドムの5番目のサブタイプという意味なのだろうが、型式表示の「F」を多分に意識したものと考えて良いだろう。また、MS−09G「ドワッジ」、MS−09S「ドワス」共に「ドワ+型式」の構成になっていることにも注目したい。


3. 「頭韻・脚韻」
 先に挙げた「メーカー独自のシリーズ名」に密接に関係してくるのだが、各メーカーの社名に引っかけたネーミングというのも実に多い。主に英国の航空機等にみられる手法で、「メーカー名」と「機体名称」で韻を踏むものや、艦艇等のネーミングによくある「頭文字を揃える」ものなどが挙げられよう。

 前者としては以下のようなものがある。
ブリストル社>頭文字B(ブルドッグ、ボーフォート、ボーファイター、ブレニム、ボンベイ、バッキンガム他)
フェアリー社>頭文字F(フライキャッチャー、フルマー、フォックス、ファイアフライ、他に魚系)
グロスター>頭文字G(グリーブ、ゲームコック、ゴールドフィンチ、ゴーントレット、グラジエーター他)
ハンドリィページ社>頭文字H(ハンプデン、ハリファックス、ヘレフォード、ハロー他)
マイルズ社>頭文字M(マジスター、マスター、マーチネット、メンター、モニター他)
スーパーマリン社>頭文字S(スピットファイア、スパイトフル、スイフト、シミター他)
ショート社>頭文字S(スターリング、サンダーランド、シーフォード、シェットランド他)
など枚挙に暇がない。「英国人というのは本当にこういうことにこだわる人種なんだ」ということが実感としてわかる瞬間であろう。

 なお、UC世界の航空機で明確にこうした法則に当てはまる機体は思い付かない。が、それらしき例は散見できる。「フライアロー」「フライマンタ」「フライダーツ」「フラットマウス」「ファンファン」のメーカーは不祥だが、「F」で頭韻を踏んでいるのは注目に値する。「F」が頭文字になるメーカーが存在したのだろうか? 少なくともバドライト社やミデア社、トリアーエズ社?ではあるまい。または戦闘機の分類記号FF−○から採られたネーミングという解釈も可能であるが、通常そういう例はないこともお断りしておく。(冷戦時代、旧ソビエト機など敵対国家の軍事機密に関するネーミングは不明だったため、当時の西側諸国ではMiG−17「フレスコ」、MiG−21「フィッシュベッド」、MiG−23、27「フロッガー」、MiG−25「フォックスバット」、MiG−29「ファルクラム」、MiG−31「フォックスハウンド」、Su−15「フラゴン」、Su−17「フィッター」、Su−27「フランカー」など「戦闘機」を意味する「F」を頭文字とする愛称を与えた例はあるが、これなどもあくまで便宜上のものである。)戦闘/攻撃機以外では「ディッシュ」「 ドン・エスカルゴ」「デプ・ロッグ」など「D」で始まる機体が多いことが分かるが、これも想像するに「D」の着くメーカーの機体であろう。

 また、後者の例としては艦艇に韻を踏むものが多く、大海軍国である英国を中心にひろくみられる手法である。戦間期の英国駆逐艦などは、ほぼ同型のA〜I級まで「A級」、「B級」で9隻中8隻、「C級」は4隻すべて、「D級」「E級」「F級」「G級」「H級」「I級」も9隻すべてが頭韻を踏んでいる。1916年計画開始の「アドミラルティV級」などは28隻すべてを「V」で始まる名称に統一し、「アドミラルティW級」も19隻すべてが「W」で頭韻を踏んでいる。

 この考え方を応用れば、「グワジン級」の「グワ〜」には特に意味はなく、ネームシップの「グワジン」にちなんで以降の艦が頭韻を踏んだものと解釈することも可能である。あるいは1番艦「グレートデギン」も同様に韻を踏んでいることに注目すれば、英国艦にみられるように「G級」という秘匿名称で計画が進行し、これが具体化すると同時に「G」で頭韻を踏んだものとも考えられる。そうなれば「アサルム」以外はことごとく「G」の頭韻を踏んでいることになる。ただし、この説を採用した場合、「グワジン級」を改装したであろう「グワンバン級」(正式名称ではないが)、拡大クラスである「グワダン級」(これも正式名とは言い難い)は大幅に改設計していながらも「G級」として韻を踏むのに対し、直系(とされる)「レウルーラ」が韻を踏んでいないのが気になる。もちろん形状だけをみれば「レウルーラ」が「グワジン級」直系とは思えないのだが、多くの設定で「グワジン級レウルーラ」と表記されていることからも、また当初の設計思想であるリフティングボディ形状を採用していることからも「直系」と言われれば認めざるを得ないのが実状である。このあたりの整合性が今後 の課題であろう。

 また、「J」の頭韻と「Gun」の脚韻はUC0088年以降に顕著に見られるようになった地球連邦製量産MSのネーミング上の特徴である。試みに列挙してみると「J」系がジェダ、ジェガン、ジェムズガン、ジャベリン、ジェイブス、「Gun」系が(ジェガン)、ヘビーガン、ハーディガン、ジェムズガンとなり、サナリィ製(製造はアナハイム)のF−71「Gキャノン」、系統不明のFD−03「グスタフ・カール」等一部のMSを除いてほぼ全ての量産機がこのどちらか、ないしは両方に該当することがわかる。
「JEDA?」ジェダ(RGM−88X?)
「JEGAN(JEGUN?)」ジェガン(RGM−89)
「HEAVY−GUN」ヘビーガン(RGM−109)
「HARDYGUN」ハーディガン(RGM−111)
「JAMESGUN」ジェムズガン(RGM−119)
「JAVELIN」ジャベリン(RGM−122)
「JAVES?」ジェイブス(?)
 これらは「GM(ジム)」の発音が「Jim」と同音であり、「Jim」が「James」の親しみを込めた呼び方であることを考えれば、おそらく連邦製量産MSの愛称が「GM」>「Jim(James)」>「Jの付く名前」へと変化していったものだと考えられる。また、「Gun」系は間違いなく連邦製MSのフラッグシップ「GUNDAM」を意識したものであろう。おそらく「Jの付く人名」が「量産機」を、「Gun」と付くものが「ガンダムを意識した上位機/試作機」をそれぞれ表わすという暗黙の了解があったものと思われる。しかし、こうしたネーミングは付けられはじめた当時はそれなりに遵守されるものであるが、やがて逸脱していくのも人の世の常である。「ジェダ」で正式採用を勝ち取れなかったアナハイム社が、続く「ジェガン」でギリギリの反則技を使い「Gun」ではなく「Gan」を使用することで実際には「ジェダ」のマイナーバージョン機でしかないRGM−89に「−ガン」という「−Gun」と同じ「音」を付けることによって箔を付けたものと推察されるからだ。

 これはRGM−119「ジェムズガン」に顕著であり、「GM系」を表す「James」と「ガンダム系」を表す「Gun」を合わせ持つネーミングとなっている。ここにいたって「ジム系」と「ガンダム系」はもはや一本化されたと見てもよいのではないだろうか? 実際に地上用の「ジェムズガン」と同じ系列で生産された宇宙用量産機「ジャベリン」では連邦製量産MSでは初(RGM−79がある以上、RX−79系は量産機とは呼べないだろう)のデユアルセンサーを採用している。確認されてはいないが、これは略同型機の「ジェムズガン」にも装備されていたと見るべきであり、そうなれば「GM系」と「ガンダム系」の融合を端的に表わす好例となろう。

 おそらく、「ジム」クラスの機体価格で「ガンダム」クラスの性能を!というのが、UC0100年代のアナハイムの販売戦略だったのだろう。まず贅沢に奢った上位機種で「名」を売り、これがある程度浸透して市場を支配するようになると、カタログスペックだけは上位機種に並んだような(それでいて実は使えないという、コンピュータ業界によくある)機体を量産したのではなかろうか? また、そうした販売戦略で十分に収益をあげ得たからこそ、「高級機の一からの開発」といったリスクは避けたのであろう。結果、サナリィの流れを汲むザンスカール製のMS群に決定的なアドバンテージを与えてしまったのである。遅まきながらリガ・ミリティアに協力したのも、企業としてのアナハイムの嗅覚が鈍っていないことの証ではあるが、いささか「泥縄」の感が否めないのも事実であろう。

 雑駁ではあるが、こうして「企業、軍の都合」という側面からUC世界のネーミングを現代、ないし過去と関連させながら実例を交えて考察してみた。研究というほどに突き詰めたものではないが、これまであまり光の当てられなかった面に対して、新たな切り口を示せたのではないかと自負している。現在の「ガンダム」を巡る状況は芳しいとは言い難いが、サンライズ、バンダイ、そしてホビージャパンには、こうした人文的側面からも納得できる設定を作っていただくよう切に願うものである。今回のパーフェクトグレードRX−78でも、また新たな設定が幾つかされたようだが、数値や形状だけにとらわれず、こうした側面からも検討を加えて下さることを希望する。とりあえず、「フライマンタ」をはじめとする「F」シリーズの機体を解説するときには、どうせなら「F」の付くメーカー名を考案していただきたい。とりあえずの筆者の願いとはその程度のものである。


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