突発シリーズ「重箱の隅」vol.1
RGC−80のシリアルと仕様の違いについて


 RGC−80は、その生産数が48機とも58機ともいわれ、数自体はそれほど多いわけではない。しかし、搭載兵装には「360mmロケット砲」説、「240mmキャノン砲」説、「180mmキャノン砲」説などの異説があり、その少ない生産数のなかでもある程度のバリエーションがあったものと考えられている。
 だが、今までその具体的な違いについて論じた研究はなかった。あるいはあったのかもしれないが、市民権を得るには至っていない。そこで、ここでは残された写真をもとに仮説を立て、順次検証していくことによって、これらのバリエーションをある程度明確化していきたいと思う。

 まず、RGC−80の確認できる写真ということになると
1.北米戦線で作戦中の2機(1/144キット箱絵)
2.量産1号機(「TV版ストーリーブック3」初出画稿)
3.アフリカ戦線配備機(「MSVハンドブック1」等掲載)
4.北米戦線配備機(「MSVハンドブック1」等掲載)
5.ア・バオア・クー攻防戦時の写真(「TVマガジン」MSV図鑑)
6.星一号作戦参加機(「コミックボンボン」1983年3月号)
7.豪州戦線配備機(「コロニーの落ちた地で…」ジャケット)
8.宇宙艦隊所属機(1/144「ジム・スナイパーカスタム」箱絵)
といったものが挙げられる。

 今まで、これらの機体は単に塗装が異なるだけだと考えられてきた。しかし、詳細に検証していくと、どうも細かな仕様の違いがあったことが分かる。そして、その最も顕著な例が右肩に装備された主武装であり、その砲口である。まず、「単純な砲口を備えたもの」と「砲口に切り欠きがあるもの」に大別でき、さらに、「バレル中央付近に砲身に対して平行するリブ様のモールドがあるタイプ」と「これがないもの」、また、「通常の砲身構成を採るもの」と「砲身を構成するピース数が多いもの」、「機関部にスリットが並ぶもの」と「スリットがないもの」とに細別できる。
 しかし、個々の再現性については少々疑問もあり、これらの資料が100%実機の姿を反映しているかどうかは疑わしい。そこで、ここでは細かなディティールに関しては棚上げし、さしあたって砲口処理の違いによって大きく2類(単純砲口=「I類」、切り欠き砲口=「II類」)に分類することにする。

 細かな仕様が判明すれば、次はRGC−80の製造順を明らかにすることで、これらの違いに考察を加えることが可能となる。実は、その際にヒントとなるのが、股間のメインベンチレーター・バルジに記入された4桁の数字である。今回、シリアル解析の対象にRGC−80を選んだ理由もここにある。これがシリアルナンバーの下4桁であった場合、試作機から数えれば通算2号機にあたると考えられる量産1号機が「8154」である以上、おそらく試作機が「8153」、58号機である量産最終号機で「8211」、総生産数48機説なら「8201」だと思われる。ただし、48機説と58機説の混乱の原因を時期差ではなく、生産拠点の違い(註1)に求めた場合、シリアルの一部が別枠になっている可能性はある。例えば、ジャブロー製の機体が「8000」番台であるのに対し、他の施設で生産された機体は「7000」番台や「8X00」番台である可能性は高い。また、2説併存の原因を戦中・戦後の時期差(註2)に求めた場合、0080年1月1日以降調達分に関しては、シリアルの基幹が変化している可能性も大いにあると考えられる。

 この他、北米で実戦使用された機体に「8172」が確認できる。また、3桁の数字を記入した機体もあり、やや確度は低いものの「181」「184」等が確認できる。また、一部に2桁の数字を記入したものもあり、アフリカ戦線配備機(3)では「53」、星一号作戦時(6)の「58」、北米迷彩機(4)では「85」が知られている。
 2桁の数字については部隊内の通し番号である可能性も高く、シリアルとは断定できないものの、「58」「85」に関しては、シリアルの下2桁であっても問題ない。また、ア・バオア・クー攻防に際し、ジオン軍エース部隊との戦闘で撃墜された機体にも2桁の数字が確認できるが、残念ながら写真が不鮮明で判読できなかった。このため、2桁については参考程度に留め置くのが妥当であろう。
 問題は3桁の数字である。確認されている3桁は「181」「184」のみであるが、もしこれらが4桁目の「8」を省略したものであれば、1号機「8154」から58号機「8211」までの間に見事に納まることになる。これに対し、これら3桁の数字がよく言われるような部隊編成を表わすものであったと解釈した場合、「181」は「第1中隊・第8小隊・1号機」と解釈できそうではある。しかし、第1中隊に8個小隊以上が存在する事態はにわかに想像し難い。ジオン軍に多い、こうした砲塔ナンバー的な解釈はこの際当らないのではなかろうか。

 ちなみに、これまで出てきた機体をシリアル順(一部推測)に並べると面白いことがわかる。

8153 試作機 短砲身360mm砲装備型
8154 量産1号機「I類」
8158 量産5号機「I類」 星一号作戦投入
8172 量産19号機「II類」 北米戦線配備
8181 量産28号機「II類」 詳細不明
8184 量産31号機「II類」 詳細不明

 8158〜8172の間で、砲口の形式が変化しているのである。仮説であるが、初期型と後期型という風に、時期差で解釈できるのではないだろうか? ロケット砲弾を使用したとされるM−79E1を取り外して写した写真が知られているが、この写真では砲口に明確な切り欠きを持っている。また、RGC−80の開発は主砲発射時の反動とバランス調整が主であったといえる。多くの資料では量産1号機(通算2号機)から装備されたように言われるロケット砲ではあるが、この切り欠きを持つM−79E1が装備されたのは、量産5号機〜19号機の間だったのではなかろうか? もちろん、それ以前に装備されていたのがロケット砲であったかキャノン砲であったかどうかは不明である。しかし、切り欠きの有無は厳然として存在しており、何らかの変更が施されたことは明白だと思われる。また、これは資料に基づくものではなく、完全なる憶測ではあるが、この初期型が装備した砲の型式はM−79ではなかろうか? 中世紀アメリカ陸軍などの場合、改良型の試作時には○○E1と表記し、これが採用されると○○A1となる。有名なものではM1E1とM1A1の関係があるが、M−79 の場合も同様だったのではなかろうか。

 ちなみに、ジャブローで制作された48機のRGC−80に関しては、その配備先が判明しているが、宇宙に上げられた14機、北米の6機、アフリカの19機、ジャブローの9機に関しては、その数字の大小に関わらず、常にこの順列で表記される。実際に最も早くRGC−80を受領したのは北米の部隊であった(註3)といわれているが、この並びに意味があるとすれば、それはシリアル順の配備計画を表わしているのではないだろうか? あくまで参考としてだが、最初の14機(8154〜8167)が宇宙艦隊配備となり、次の6機(8168〜8173)が北米戦線へ送られたとするならば、上記のシリアルナンバー表とも上手く一致する。量産1号機の配備先は不明だが、最近の資料(註4)には「地球連邦宇宙軍所属」と説明されている。宇宙へ配備されたと考えるのが妥当であろう。また、8158は実際に星一号作戦に投入されている。この他、(5)の「ア・バオア・クー攻防戦時の写真」(8)の「宇宙艦隊所属機」など、宇宙配備された機体には「I類」が目立つことも指摘しておこう。完全なる推測であるが、切り欠き付きのM−79E1砲は15号機「8168」から採用され たのではなかろうか? この考え方でいくと「8181」「8184」はアフリカへ配備されたことになるが、同地域で本格的な反攻作戦が始まったのは12月15日であり、時期的にかなり遅い。また、北米戦線へ配備された機体も当初は全て宇宙軍塗装の赤白ベースで塗られていたらしいことが分かっており、アフリカ戦線の機体も当初はジャブローにあり、塗装も赤白であった可能性は高い。件の「181」「184」はジャブロー基地で生産ラインに乗っているところを撮影されたのではなかろうか。


註1:「RGC−80は,ジャブロー内の地球連邦軍工場において,終戦までのあいだに48機生産され,全機が実戦に参加している。」(『ポケットカード9 MSVコレクション』より引用)との記述は、「ジャブロー内」「終戦までのあいだに」と2回の規制を加えた上で「48機」としている。この解釈では「ジャブロー以外で生産された機体」ないし「戦後に生産された機体」は計算に入っていないことになる。近年、今まで知られていなかったオーストラリア方面の記録も発見されつつあり、どちらかというと時期差よりも生産拠点の別という説が有利に傾きつつあるようだが、いまだ予断を許さない状況にある。
 また、別の観点からではあるが「ジャブロー製の機体」のシリアルが「8」から始まっていることに注目したい。シリアルの先頭は「会計年度」であることが多く、この「8」も「80年度会計(の前倒し)」と取れなくもない。また、80年度予算の前倒しであるがゆえに「RGC−80」という型式番号が与えられたと考えることも可能であろう。しかし、現在までにシリアルの先頭に「79」ないし「9」といった数字が確認されていないことから、この「8」を80年度会計予算と解釈するのには無理があるようだ。また、そもその余程の挙国一致体制であっても予算の前倒しなどが可能であったか不明であるし、80年度会計調達機であれば「8」ではなく「0」と表記すべきであろう。
 ここで一つ注目したいのが、U.C.0083年以降採用されたとされる拠点番号制との一致である。この拠点番号制ではジャブロー工廠は2系統に分けられ、それぞれ「18」「19」の番号を与えられている。このうち、10の位には特に意味はないと考えられることから、ジャブロー工廠の持つ固有の番号は「8」と「9」ということが推察可能である。小惑星ペズンやコンペイトウ、ゼダンの門等、戦後になって機能し始めた拠点が組み込まれていることから、拠点番号が83年以降に新規に与えられたものであることは明白であるが、MS生産の老舗であるジャブローが何故に「8」「9」という番号を与えられたのかについて説明できる資料はない。別に「1」「2」であっても問題はないのである。これは一つの仮説であるが、もともと一年戦争中からジャブロー工廠製の機体はシリアルの先頭を「8」及び「9」に設定されていたのではないだろうか? そう考えれば、拠点番号製付与の際に、無用の混乱を避けるため、敢えて「18」「19」がジャブローに与えられたと考えてもそれほど無理はないと思われるのだが。

註2:註1参照

註3:「RGC−80GMキャノンがはじめて配備されたのは、北アメリカ戦線の南下ルート部隊であった。総数は6機だったが、RGM−79との共同作戦であげた戦果は、大きなものであった。」(『モビルスーツバリエーション3 連邦軍編』より引用)

註4:『MSVコレクションファイル 宇宙編』参照


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