「水中用ザク」のこと

その1.「概論」


 今回は掲示板で大人気(笑)の水中用ザクを取り上げてみたい。ただし、細かいディティールに関しては現在もまだ調査中であり、ここでは大綱を提示するに止めたい。最終決着が冬コミに間に合えば、この問題も是非「同人誌版GUNDAM MILLENNIUM」で取り上げたいと思う。そのため、本来なら掲示板用に「です・ます調」で書くべき文章であるが、同人原稿との共有化を図る観点から「だ・である調」に統一してしまった。文脈から表現方法まで論文調で堅苦しく、読みにくい文章となってしまったが、少なくとも、これが現在の折檻の見解である。どんなものだろうか?

 まず大前提として、終戦直後の連邦に新規MSを開発する余力はなかったであろう。特に海軍の凋落は著しく、戦前の予算枠は宇宙軍にそのほとんどが持っていかれたと思われる。それでは新機種の製造をあきらめて在来のGM系MSで賄えばよかろうとも思うが、GM系MSはご存知のとおりセミ・モノコック構造を採っている。それゆえあれだけの大量生産、大量配備、大量運用が可能だったのであるが、逆にその構造ゆえに耐圧性には難があったものと思われる。もしそうならば、水中での運用は苦手であろうし、RAG−79シリーズ以外、思ったほど水中用バリエーションが存在しなかったこととも辻褄が合うというものである。

 それならば、「水中用MSはモノコック構造のジオン系MSで賄う」という結論に至るのは必至であろう。とはいえ、傑作機「ズゴック」等は極めて数が少なく、一年戦争後を描いた映像作品で確認できないことからも、実戦部隊を編成するには至らなかったと考える方が自然である。おそらく捕獲したものに関しては実戦機として使用したのであろうが、新規生産には各種部品の入手が困難で、ジオンが戦中に生産した以上に高コストになると予想されるため、これは断念せざるを得なかっただろう。この辺りはビンテージ車のオーナー等ならば肌で感じている「実感」のはずである。これに対してザク系MSは総数8000機以上が生産され、終戦時には大量に捕獲されたものと推定される。これらの機体は実機もさることながら、各ストックパーツも豊富に備蓄されており、予算獲得に苦しむ軍部にとってはそれなりの魅力を有していたことだろう。このため、これらMS−06系MSを有効活用するべく、実戦部隊が編成されたことは想像に難くない。また、映像作品での扱いがそれを端的に物語っているといえよう。

 既に性能的に見劣りする捕獲機を有効に活用するには、近代化改修を加えて第一線機として使用する方法と、第一線を外して補助的な機体として運用する方法の二通りの運用法が考えられる。MS−06M「水中用ザク」等はこのうちの前者に相当し、実用潜航深度に難のあるRAG−79系に見切りをつけた連邦海軍が、少ない予算のなかで年次的に調達していったものではないだろうか。故に、捕獲されたMS−06M系のうち、水中速度の勝るM−1型は実戦機として、潜航深度の勝るM−2は深海作業用としてそれぞれ各部隊に配備されたと考えられる。これらの機体のうち、最初に配備された機体は純粋な捕獲機であったろう。ここではこうした機体を便宜上「(連邦軍)水中用ザク第1世代」と呼びたい。しかし、これら第1世代機はその数が極めて少ないことも特徴である。全生産数がM−1、M−2合わせても7機でしかなく、それらも2、3機を残して失われたとされているからだ。これではUC0087年代の配備状況を説明できない。おそらく、その後も何機かはストック部品や他のMS−06系から製作されたのではないだろうか。

 しかし、こうした増加生産機も細かく分析すると微妙に性格が異なるであろうことが推察できる。おそらく当初の機体「水中用ザク第2世代」はストック・パーツをもとに少数製造したものであろうが、戦中に製造していた部品が尽きると、新たに戦前規格の部品を作るよりも最新の技術で新たな部品を設計した方が早く、かつ低コストと思われるため、一部が新造部品で代替されたであろうことは想像に難くない。RMS−192Mの肩、およびバックパックのサブロック等はこうした新規製造部品ではなかろうか。また、これらの機体のために製作された新規製造部品がガンダリウム系合金だったという可能性も否定できまい。RMS−192Mでは、この他にも胸部に増加装甲が施されているように見えるが、コクピット周辺はリニアシート導入に際して最も手を加えた部分であり、パイロット保護という装甲強化の大原則に立ち返ってみても、やはりガンダリウム系と考えた方が良さそうだ。こうした、基本フレームはMS−06Mだが、一部部品を連邦製に交換・強化している機体を、ここでは便宜上「水中用ザク第3世代」と呼ぶ。(もちろん第1世代、第2世代とも、順次第3世代仕様に改装さ れたであろうことも申し添えておく)

 このように、ストック部品が底をついた後、連邦製新規部品を組み込んで製造された機体も一定数存在したと思われるが、素体となるMS−06M系フレームが有限である以上、このような第3世代機も一時的なものであろう。最終的には基本フレームすら代替機で賄った機体が製造されていたと考えるべきである。いわば「水中用ザク第4世代」であり、これらは原形どおりのMS−06Cベースに拘らず、MS−06FなりMS−06Jなりが手元にあれば、それを利用したものと思われる。実際にもっとも多量に捕獲されたのは最多生産数を誇るF型であろうし、現にRMS−192Mも俗に「マインレイヤー」と呼ばれるMS−06Fの一バリエーション機から製作されたものがあったとされるからである。(これは若干ウラ話だが、1/144キットは実際そうである)こう考えれば、RMS−192Mが一般的な丸型腿であることにも一応の説明が付くし、RMS−188MDの耐圧モニターシールドが形状変更していることも、それなりに解釈可能になるのではないだろうか? ここではRMS−188MDの耐圧モニターシールドは、M−2用純正部品が尽きたため、既存のMS−06系の頭 部に合うように新規製造されたものと解釈している。とても既存の頭部に見えないという意見もあろうが、そういう向きには「既存のMS−06系」を「連邦規格」に置き換えて考えてもらっても結果は同じである。

  こう考えると「もっと高性能な機体も作れるだろうに、なぜわざわざザクで?」「どうしてGM系ではないの?」「ムーバブルフレームくらい搭載されていないとおかしいのでは?」「捕獲した機体にしては数が多いのではないか?」といった数々の疑問にも答えられるのではないかと思う。

 先述した捕獲機の第二の利用法についても簡単に触れておこう。性能の劣る捕獲機は通常、練習機、標的曳航機、自走砲の搭載母体等に転用されるのが一般的である。このうち、練習機としてはMS−06F2の一部が実際に運用されており、自走砲的な機体としては「ハリオ」のMS−06K、ジャブローのMS−06V等が挙げられる。これ以外の運用法としてはアンマンのMS−06Eがあろう。このうち、MS−06F2練習機、MS−06V工兵車両(MS)、MS−06E偵察機は純粋な捕獲機であろうが、宇宙用MS−06Kに関しては、原形がMS−06Jであることから考えて、新造機ないしは大改修機としたいがどうだろうか?

 また、この他の利用法としては技術検証に使用するという方法もある。これは完全な旧式機には必要ないのだが、少しでも特殊な技術が使用されている機体については、調査・研究のために捕獲機を運用したり、場合によっては新造機を製作する場合もある。実例としては戦後のチェコスロバキアがナチスドイツの残していった部品をもとに、「メッサーシュミットMe262」ジェット戦闘機を「アビアS−92」として試作している。よくあるように捕獲して使用したのではなく、工場を接収して実験用に少数ながら新規製造したようである。もちろん、これらの機体は実戦用ではなく、単にジェット機の運用と技術検証のための習作である。

 また、同じドイツの「メッサーシュミットMeP.1101」ジェット戦闘機は極めて進歩的な設計であったため、たった1機の試作機は80%完成状態であったがアメリカ本国に運ばれて調査を受けることになった。しかし、輸送中の事故により実機が破損したため、米軍はこのコピー機製作をベル社へ依頼し、それをうけて完成したのが世界初の実用可変翼機となった「ベルX−5」である。この「P.1101」は極めて興味深い機体であり、「80%〜」のくだりが某「ジオング」を連想させるのであるが、これは今回の本論とは直接関係ないため、ここでは割愛させていただく。

 UC世界でこうした運用をされた機体としては、オーガスタ基地のMS−11「アクトザク」が挙げられよう。当時、連邦軍内にあってもマグネットコーティングは最新の技術であったから、ジオン製のマグネットコーティングに軍部が興味を覚えたとしても別段おかしくはない。おそらくオーガスタ基地の性格から考えて、技術検証機として置かれていたものであろう。

 話が若干本論からそれたが、「一年戦争後の水中用ザク」を考えるにはこうした背景にまで踏み入る必要があると思う。特にRAG−79系やRMS−188系との関係をいかに理解するのか? また、なぜ「ザク」でなければならなかったのか? という点に今回は力を入れさせてもらった。各資料の収集・突合は皆さんにお任せして、折檻はその基本路線の打ち出しに視点を移してみたというわけである。

 最後にMSの配備状況に関してだが、当然のことながらUC0079当時とUC0087当時の状況は変化していると考えるべきである。もちろんUC0088も同様である。実際、MSの配備状況など週単位で変化があってもおかしくないのだ。UC0087の「ホンコン急襲」のくだりもガルダ級「スードリ」という巨大輸送機がある以上、直前の状況と変化していてもそれほど不思議なことではないであろう。これらについては資料の洗い出しが終わった時点で整合を図ればよいのであって、それには折檻も参加させていただくつもりである。ただ、限定された資料をもとに限定的な仮説を立て、新たな資料が発掘される度にそれが御破算になるのも不毛ではないか、と考えた末に今回の仕儀と相成ったわけである。本稿が水中用ザク研究の深化に少しでも役立てば幸いである。


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