地球連邦軍強襲揚陸艦概史<補足>


 ジャブローでのホワイトベース復旧作業に使用され、結果、建造中止となったSCVA−74であるが、その艦形は今までペガサス級とは大きく異なるものとして解釈されてきた。その根拠となったのが、修復中のホワイトベースと同艦を写した有名な映像であることは言うまでもない。この映像によると、SCVA−74とおぼしき艦にはペガサス級の特徴ともいえる左右に突き出したハンガーデッキがなく、かわりに中央船体がかなり幅広に設計されているように見受けられるからである。それゆえに、今までこの艦に対して様々な憶測が飛び交い、それがかえってこの艦の素性を解明する妨げとなってきたように思われる。こうした現状を踏まえ、ここではこの艦をSCVA−74と同定した理由を解説し、加えて若干の考察を行ってみたいと思う。

 さて、SCV−70「ホワイトベース」は、ベルファストから大西洋を横断してジャブローへ向かう途次、ジオン潜水艦隊所属のMAと交戦状態に陥り、ハンガーデッキを左右とも破損している。まず、この点に注意していただきたい。コアファイターの離着艦が不可能になるほどの損傷であり、第3デッキのガンペリーが唯一離着艦可能、という状態であった。この後、ジャブローに到着した同艦は不眠不休の修復作業を続けるのだが、この脇に見慣れぬ灰緑色の艦が鎮座しているのである。この艦は先述したようにハンガーデッキを持たないように見えるのだが、戦中にそうした艦がジャブローで建造されたという記録はない。また、その他の特徴は明らかにペガサス級の趣を示しており、どうもペガサス級の一艦であると解釈する方が妥当である。

 問題はペガサス級(改ペガサス級含む)に分類される艦6隻(当時)のうち、「ハンガーデッキを持たない」とされる艦が存在しないことである。そう考えると「この艦はペガサス級ではない」ということになるのだろうか。おそらくそう考える研究者は多いことと思う。だが、ここでもう一度先述した大西洋での戦闘とその被弾状況を思い返していただきたい。「ホワイトベース」は先の戦闘でハンガーデッキを「左右両方とも」破損している。ジャブローで復旧作業を受ける際に、この左右ハンガーデッキを修理しないはずはなかろう。そこで筆者はこう考える。この艦のハンガーデッキは「ホワイトベース」の修理のために分解され、部品として流用されてしまったのではないか。また、そのためにSCVA−74は建艦スケジュールが大幅に遅れ、星一号作戦に間に合わないと判断された結果、建造中止を命じられたのではなかろうか、と。これらの点を考慮した上で映像中の「灰緑色の艦」を考えた場合、同艦を「ホワイトベース修理のためハンガーデッキを撤去されたSCVA−74」と同定してほぼ間違いはなかろう。

 さて、自説を展開するにあたり、史実と資料の符号する点だけを指摘したのでは研究姿勢として公平とは言えない。そのため、ここで幾つかこの説の問題点を挙げ、これについても考察を加えて記述の公平化を図ってみたいと思う。

 まず、SCVA−74に限らずペガサス級の特徴の一つとして、艦体を構成する基本構造が各々独立しているという、独特の「モジュール構造」が挙げられる。これを踏まえて考察すれば、修理される「ホワイトベース」も、部品を取られたとされるSCVA−74も、共にこのモジュール構造を持つ以上、わざわざ手間をかけて分解などしなくとも、ハンガーデッキユニットをそのまま移植すればよかったのではないか、との疑問は出て当然である。SCVA−74の属する改ペガサス(準ペガサス)級は航空機搭載数12機、MS搭載数18機を誇り、これに比べて遥かに貧弱な「ホワイトベース」の性能をみれば、そのまま移植した方が気がきいていると考えるのも至極当然だからである。だが、果たして実際はどうだったろうか。当初のペガサス級はコアブロック構想に準じた設計がなされており、ハンガーデッキ下面にはコアファイター着艦機構を備え、ハンガー内部にはその換装機構が大きなスペースを占めていた。これに対し、これらの制約を取り払った改ペガサス(準ペガサス)級ではハンガー内部のスペースを大きくとることが可能となり、そのために標準MS搭載数をこれほど増加させる ことが可能となったのである。つまるところ、同じRXタイプMS運用艦といっても、コアブロック構想を基準に建造された1〜3番艦と、これを廃止した4〜6番艦ではMS運用に関する部分の設計思想が根本的に異なっているのである。そのため、SCV−70「ホワイトベース」にSCVA−74のハンガーデッキをそのまま移植しても、MS部隊を効率良く運用することは不可能だったと思われる。おそらく、このために部品単位での移植にとどめ置かれたのだろう。

 次に艦形であるが、SCVA−74とおぼしき艦は、SCVA−73「トロイホース」に比較してハンガーデッキ以外にもかなりの違いがあることが指摘されよう。同型艦でありながら、ここまで違うことがあり得るのか、という疑問ももっともである。しかし、少なくとも起工時には改ペガサス級は「三隻計画された艦はどれも同型ではなく、三者三様の外観と運用方法をしていた」とされている。この記述から察するに、SCVA−72、SCVA−73、SCVA−74は厳密には同型艦ではない。故に、SCVA−74がSCVA−72、73と外形が異なっていたとしても問題はないのである。

 なお、UC0083年の観艦式襲撃事件では改ペガサス級のうち2隻が失われている。1隻はSCVA−73「グレイファントム(トロイホース改め)」であり、もう1隻は記録がないために正確な艦名は不明であるが、この艦がSCVA−73とまったく同型であることに注意されたい。先述したとおり、起工時には改ペガサス級はすべて異なる外観を有しており、SCVA−73と同型の艦は存在しないはずである。それが、少なくとも同型に見える艦が映像で確認できるということは、SCVA−72「サラブレッド」かSCVA−74「スタリオン(新たに命名)」のどちらか、少なくとも1隻はいつの時点でか設計を変更してSCVA−73に準じた装備へと改めていることになる。そして、こうした改設計が可能なのは、未完成のSCVA−74と、既に就役しているSCVA−72「サラブレッド」を比較した場合、果たしてどちらであろうか。一度は建造を中止しながら、UC0081年に建造が再開され、SCVA−73「グレイファントム」の運用データをもとに設計を変更して完成した艦、それこそがSCVA−74「スタリオン」なのではないだろうか。

 さて、拙稿「地球連邦軍強襲揚陸艦概史」を発表した後、いくつか新たな資料が発見されている。その中にSCVA−72「サラブレッド」に関するものもあり、ここで補足しておくことにする。

 一年戦争中、公式には部隊配備されなかった「サラブレッド」であるが、星一号作戦に際しては慣熟訓練を兼ねて物資輸送に従事していたとされている。しかし、その積み荷に関して言及した資料は少なく、どの資料もあえて明言を避けている。だが、常識的に考えてペガサス(改ペガサス)級に食料や部品・弾薬を満載していたわけはあるまい。元来がMS運用艦であるからには、輸送していた「積み荷」もMSであったと考えるのが妥当ではないだろうか。そう考えれば、それを裏付ける資料がないでもない。ある資料には「改修中であった(RX−78)4、5号機は星1号作戦においてホワイトベース級2番艦サラブレッドに搭載されたとあるが、正式に確認できる資料は現存していない」とある。この2番艦という記述は気になるが、RX−78の4、5号機を搭載したのが「サラブレッド」である、という記述は注目に値する。この記述がなぜ貴重なのかは、「サラブレッド」に関する一年戦争中の運用実態を示す資料が極めて乏しいのに対し、このRX−78−4、−5に関する記述は若干だが確実なものが存在しているからである。つまり、RX−78−4、−5に関する記述を拾い、これを 分析することによって、ある程度「サラブレッド」の運用実態が考察可能となるのである。以下はこうした考えをもとにした考察である。

 RX−78−4、−5に関する記録の中に「調整にてまどった4号機、5号機が前線に届けられたのはソロモン陥落の次の日であった」という一文がある。これを「サラブレッド」を中心に考えれば、同艦がソロモンに到着したのはUC0079年12月26日となり、レビルの第1連合艦隊がソロモンに到着した日付とぴたりと符号する。おそらく「サラブレッド」は第1連合艦隊中にあったのであろう。「2機のガンダムはこの作戦(ア・バオア・クー攻略)が初陣となってしまったのである。」とする記述も、第1連合艦隊がソロモン攻略戦に参加していないという史実と矛盾しない。また、「サラブレッド」の搭載機であるが、拙稿ではRGM−79×6機、RGM−78×2機としつつ、RGM−79については不明確であるとしていた。しかし、新たな資料中に「(RX−78−4、−5から見て)先行しているGM部隊の識別信号が急にとだえたのだ」との一文があり、これが直ちにに「サラブレッド」所属の機体であるという証拠にはならないのだが、参考にはなろうかと思う。SCVA−73「グレイファントム」の搭載例から類推して、左右ハンガーに同型機を搭載しておき、両方同時に 射出するのが改ペガサス(準ペガサス)級の基本MS運用法だと思われる。「サラブレッド」の場合も、左右ハンガーにそれぞれRGM−79×3機、RX−79×1機の各4機を搭載したのであろう。

 さて、それでは唯一の実戦であるア・バオア・クーでの「サラブレッド」であるが、この作戦における同艦の資料はほとんど現存していない。現存していない理由として、同艦がこの作戦で失われた可能性も見え隠れするのであるが、結論は急ぐまい。

 最後はRX−78についての記述で締めくくろう。今回参考にした資料の最後に「記録には連邦のガンダム・RX−78は、ア・バオア・クー戦において1機のみ帰還している」とする一文が添えられている。「ホワイトベース」に配備された2号機は大破、「サラブレッド」所属の5号も大破しており、この記述を素直に解釈すれば、4号機は帰還してるということになろうかと思う。そうなれば、このRX−78−4は、どこに「帰還」したのだろうか。そもそも母艦に帰り着く以外の救助のされ方を「帰還」と表現できるのであろうか。筆者はおそらく「サラブレッド」は一年戦争を生き残ったのだと考える。そして、であればこそUC0083年の惨劇と「サラブレッド」を完全に分離して考えることができずにいるのだ。あえて、観艦式参加艦を「グレイファントム」と「もう1隻」としたのは「サラブレッド」である可能性を捨て切れないからである。心中お察し願いたい。


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