MSK−008「ディジェ」とSE.DJ−1R「ディジェSE−R」について


■はじめに■

 UC世界におけるMSの魅力の一つに、「開発系統の面白さ」がある。複雑であると同時に、多くの機体については明確な流れが窺われ、これを解き明かす楽しみは、他ではなかなか味わうことのできないものである。しかし、標記の2機については例外中の例外であり、その型式番号だけに注目したのでは、とても同じ系譜にある機体とは思えないのである。技術史的に謎の多い機体でも、型式番号からおおよその開発経過は類推可能なのだが、こと、これらの機体のこととなると、肝心要の型式番号に脈略がなく、そういった人文的なアプローチさえも拒んでいるかのようだ。共通項のない二者を結び付けることほど難しいことも少なかろう。しかし、一方で両者には他の何者も持たない共通項があるのも事実である。その共通項とは何あろう、「ディジェ」という名前である。法則に基づいて与えられる型式番号ならいざ知らず、機体の愛称が開発経緯を端的に表わす例は少ない。しかし、RGZ−91「リ・ガズィ」のように、皆無というわけでもないのである。

■型式番号と開発コード■

 さて、MSK−008はカラバに採用される以前、計画段階、あるいは試作段階で何と呼ばれていたのであろうか? 少なくとも「MSK−」ナンバーではあるまい。これら「MSK−」ナンバーは、おそらくカラバに制式採用された段階で与えられるものであり、MSK−009「Σガンダム」が、当初"MSA−014"と呼ばれていたことからも推測可能である。採用が決定する以前には、別の名前で呼ばれていたと考える方が妥当であろう。MSZ−006>MSK−006、MSR−100S>MSK−100Sのように、敢えて同じナンバーを与えた例もあるが、MSK−006の場合はMSA−005K「ガンキャノン・ディテクター」に続く採用であり、飽くまで手順は踏んでいた(ないしは踏もうと志した)と思われるのである。

 こうして開発コードと制式採用ナンバーを分けて考えるのには、それなりに理由がある。というのも、MSK−008の開発コードに「DJ」という記号が含まれていれば、両者の関係が非常にスッキリするからである。仮に、MSK−008の開発コードが「DJ−1」だった場合、開発系統的にはほとんど「リックディアス」と相違ない機体が、ありがちな「○○・ディアス」ではなく、「ディジェ」と呼ばれたことの説明も付きやすい。「RX−78NT1」が、開発コードの「RX」にちなんで「アレックス」と呼ばれたように、名称未定の「DJ−1」なる機体が、開発担当者を中心に「ディジェ」と呼ばれたとしても、なんら違和感は感じられないであろう。
 うがった見方をすれば、「DJ−1」の「D」は「ディアス」のDである可能性もある。かつてのジオンの名機「MS−06J」の「J」がいかなる理由で付けられた記号かは判然としないが、当時「地上用」を示す記号として確立していたのならば、「ディアスの地上用」として「DJ」なるコードを与えられたのではないか?などと詮索してみたくもなろうというものである。あるいは、単純に「ディアス1型(Dias−1)」を「DI−1」と略し、これを符丁として使いつつ、後継機に「DIに続くもの」という意味の「DJ」を与え、「DJ−1」と名付けたとも考えられよう。いずれ推測に過ぎないのであるが、「あり得ない」とも言えないのではなかろうか?

■宇宙用ディジェと新型推進システム■

 ところで、この「DJ−1」がカラバに採用される一方で、エゥーゴにより宇宙用に再設計されたとしたらどうなるだろうか? MSZ−006C「Zプラス」の如く「DJ−1B」なり「DJ−1C」となるのだろうか? なるほど、その可能性もあろう。だが、こうした「A型から順次採用順に与えていく」方式は、本来は制式採用ナンバーに与えられるべきものであり、開発コードに直接添えられるべきではないとも考えられる。そうした場合、多く用いられる方法が「用途を表わす文字列の頭文字を与える」という方式である。「RGM−86R」、「MS−09R」などの例を見るまでもなく、連邦系、ジオン系の別なく、かなり普及した方法であったことが窺える。それでは、具体的に「宇宙用DJ−1」に相応しいコードは何だろうか? 断言はできないが、おそらく「DJ−1R」とする答えが最も多いのではなかろうか。
 時期ははっきりしないものの、かのアムロ・レイ大尉がティターンズ動乱終結に前後して宇宙に上がった際、「型式不明のディジェ系MSに搭乗していた」という記録(『B−CLUB』第7号収録「IRON HEART」参照)が残っている。これは元ティターンズ兵士の供述に基づくものであり、信頼の程は不明だが、無視するには大きすぎる情報であろう。
 さて、この「宇宙用ディジェ」の開発コードが予想通り「DJ−1R」だったと仮定した場合、数あるMSの中からアムロ・レイ大尉が乗機に選んだように、堅牢な設計のDJ−1Rが新型推進機のテストベッドに使われることもあり得たのではなかろうか? その新型推進システムがどのようなものであったのかは明言しかねるが、型式番号から推察して、あるいは「SEドライブ」などと呼ばれていたのかも知れない。もっとも、今となっては全てが「推測」であり「詮索」でしかないのも事実である。これ以上の詮索は歴史という範疇を超え、既に妄想の域へ入っていかざるを得ない。実機が完成したかどうかすら定かではなく、ただ、その名のみを歴史に残すに留まった機体であれば、尚更のことである。

■おわりに■

 本論の主旨は、型式番号的にも、デザイン的にも、さらには必然性においても、およそ関連性の感じられないMSK−008とSE.DJ−1Rについて、アムロの宇宙用ディジェを間に挟むことで関連性を見いだそうという試みである。多くの人により、正史からは半ば無視された機体、SE.DJ−1Rについて、まっとうな評価が下されるための土壌作りができれば、それ以上の望みがあるわけではない。それぞれに納得できない部分もあろうと思うが、その際には、個々人で考察の末、納得行くものを提案して頂きたい。それが前向きな学問姿勢だと考える。なお、個々の名称や型式番号等はすべて便宜上のものであり、何らの拘束力も持つことはないことをお断わりしておく。


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