「セッターH926」のこと


 サブ・フライト・システム(以下SFS)の代名詞「ドダイ」の語源は不明であるが、この機体自体がSFSとして設計された機体でない以上、詮索しても今回の考察には直接の関係はない。今回の考察はその後裔「ゲター」から始まる。「ゲター」の語源が「下駄」であることは原作者である富野氏自身が小説版の中で認めている。こうした例は裏設定というような性格のものではなく、実際に「Hentai」「Manga」等は日本語起源の語彙が世界標準になった分かり易い例であろう。さて、今回はこんな堅苦しい文体で書くような内容ではないのだが、こういう文体の方が疲れないし、書き慣れているせいもあって、掲示板等のカドが立ち易い環境以外ではこちらの「である調」で書かせていただくことにしている。前回の「08版ドム」ではもともと掲示版に書くつもりでいたものが長文になったため「ですます調」でのUPになったが、やはり基本は「である調」で通させていただく。

 それでは折檻は「ゲター=下駄」から何を導きだそうと言うのだろうか。それはおいおい語ることとして、諸兄は「セッターH926」という機体をご存知だろうか? ご存知ない方のために説明させていただくと、「Vガンダム」でリガミリティアの使用した大気圏内用SFSのことである。この機体自体は極めて高度な技術であるミノフスキー・フライトを使用したたいへんに進歩的な機体なのだが、今回の論旨はそこにはない。問題はこの機体のネーミングである。「SETTER」は確かに「据え付ける者」とか「セッター犬」と呼ばれる犬の種類という意味もないわけではないが、そのSFSとしての機能からいえばふさわしいネーミングではない。それでは視点を切り替えて考えてみてはどうだろうか。

 では、またも「問いかけ調」であるが諸兄は「雪駄」という日本語をご存知だろうか?竹皮草履の裏に牛皮を貼り付けた履き物で、一節には千利休の考案ともいわれる由緒正しい「履き物」である。読みはもちろん「せった」である。試しに日本語辞書で変換されれば実感できることと思う。大抵の辞書なら一発変換である。勘のいい読者であれば既に何か気が付いておられることと思うが、折檻の考えもおそらくそのとおりである。「ゲター=下駄」ならば「セッター=雪駄」ではないのか? これが今回のメインテーマであり、「GUNDAM MILLENNIUM」始まって以来の最もなさけない考察の始まりでもある。

 そもそも富野氏のネーミングセンスは本人が重要視している対象には強烈に働き、数々の名ネーミングを残しておられる反面、物語のテーマと関係の薄い脇役のそれには脱力するものが多いのも有名な話である。ZZガンダムでは主人公のネーミングでそれをやってしまったが、それ以降はあまりこういう危ない橋は渡られていない様子で、見ているこちらが安心して見ていられるようになった。なかでも「Vガンダム」はインド、東欧系を中心に冴えたネーミングが光った作品であったが、その中にあって「雪駄」である。理論上はおかしくない。「雪駄」という言葉が「SETTER」として世界標準になった時代なのかもしれないのだ。実際、女性用高級靴のブランドに「ワラッジ」というのがあるくらいである。それくらいおかしくもなんともないのだ。だが、敢えて「雪駄」というからには、何がしかの情熱が働いているとみて間違いないだろう。富野氏をしてここまでこだわらせる「履き物ネタ」とは一体なんなのだろうか? といっておきながら、もちろん本稿の趣旨は富野氏の心理分析でも評論でもない。単に面白がっているだけである。さて、それではもし「セッター」の次世代のSFSが 開発されたとすれば、どんなネーミングが考えられるだろうか? 折檻はこういうバカなお遊びも一種の知的遊戯だと考えている。事例を集め、そこから法則を割り出し、その法則に則って世界を、未来を分析する…というのは「アカデミズムの本質」に他ならないからだ。急に真面目になってしまったが、折檻がガンダムに対して真面目でなかったことはついぞないのであり、口調はバカでも眼差しはいつも真摯であることは理解しておいて欲しい。さて、気を取り直して「セッターの次」であるが、折檻は「ケッター」を推薦したい。「けった」とは一部地域で使われている「自転車」を表す語であり、日本語の一方言である。下駄、雪駄が広辞苑にも載っている標準語の語彙なのに対し、次でいきなり方言というのは苦しいが、UC世界において、一言語とその方言の違いなどほとんど無いものと考えている。そもそも英語、ドイツ語、フランス語など、おおかたのヨーロッパ言語はすべてラテン語の方言であるといっても過言ではない。それならば、「けった」とて世界標準になる可能性の0.1%位は秘めていると思いたい。それに、脚韻を踏んでいて格好いいではないか。「ゲター」「セッター」「ケ ッター」である。「履き物」でないのは苦しいが、乗り物ではある。また、それが発動機付きの高級な乗り物ではなく、飽くまで人力の「自転車」であるところがポイント高いと思っているのだが、諸兄はどう思われるだろうか?

 さて、ここまで考えてきて、ひとつ恐い考えにいたってしまった。その恐い考えというのは「ガイア・ギア」に登場するMMのひとつである「ゾーリン・ソール」についてである。「ゾーリン・ソール」の綴りは「ZORIN SOUL」であり、「ZORINの魂?」といったスカシたネーミングであるように思われる。折檻でも普通ならそう見るだろう。だが、今日は違う。これだけ「履き物」にこだわったのである。もはや「毒を食らわば皿まで」の心境である。そこでまず「下駄」「雪駄」に続く「履き物」を探していてピンと来たのである。誰もが考えるとおり、それは「草履」である。なんとか「草履」を使って良いネーミングはできないものか?と考えていた時にそれは閃いたのである。今まで字面どおり「SOUL=魂」と考えていたのは早計ではなかったのか? それならば「ゾーリン・ソウル」と表記すればよいではないか。わざわざ「ソール」と読ませることにもし意味があるなら、富野氏の本心は「SOLE」と綴りたかったのではないだろうか? 「リーンホース」の「LEAN HORCE」と「REIN FORCE」のような関係ではないのか? 疑惑は深まる。なぜ「SO LE」などという綴りにこだわるか不審に思われる向きは英和辞典を引いてみていただきたい。「SOLE」とは「ラバーソール」などというように、「靴底」とか「足の裏」という意味があるのだ。つまり、折檻が何をいわんとしているかというと、つまりこうである。「ゾーリン・ソール」=「Zori'n Sole(草履)」! ご存知のとおり、靴には足を包む部分と足に踏まれる部分があるが、草履には「足を包む部分」というものが存在しない。つまり、「草履」とは「ソール」そのものである。「草履(Zori)と呼ばれる、靴底だけの変な履き物」というニュアンスが世界標準になった場合、「〜通りAvenue」「Mt.大山」等と同じニュアンスで「草履Sole」と呼ばれてもおかしくはないだろう。それに語調を整える意味で「n」を入れて完成である。この場合の「n」は少々強引だが、「ハイザク」が発音し難いため「ハイザック」になった世界である。これくらいのことは容認されよう。おそらく探せばまだまだこういうマヌケなネーミングは存在すると思われるが、こういうネタは思い付いた翌日にはそれほど面白くなくなっているのが普通である。やはり旬というものが あるのだ。そういうわけで、諸兄にもなるべく早くお召し上がりいただきたい。

 少々強引ではあったが今回の戯言は以上である。推敲もへったくれもなく、一気に書き上げたため読み難いことこの上ないが、こういうものは最初の第1稿が最も面白いものである。下手に手を加えると当初の面白さが失われることにもなりかねない。今回はそのため敢えて手直しせずに掲載することとした。乱筆乱文ご容赦願いたい。


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