■トーマス・クルツ機の謎


 最近、一部で研究の進んでいるMS−14「ゲルググ」の塗装とマーキングですが、何気なく一枚のイラストを見ていたら、どエライことに気が付きました。講談社の『モビルスーツバリエーション2 ジオン軍MS・MA編』の表紙がそれですが、この表紙をボックスアート史学の視点から舐めまわしていたら、なんとコクピットハッチ上部に「CAPT.C TOMAS」と書かれているのです。これはトンデモない大発見ではないでしょうか?

 まず「CAPT.」ですが、これは「Captain」の略であり、英和辞書にも載っているちゃんとした表現です。問題は、その意味するところで、空軍や陸軍では「Captain」は「大尉」を表わし、海軍においては「艦長」=「大佐」を指します。ジオンMS部隊の編成上、海軍形式ということはなく、おそらく空軍式を採用しているものと思われますが、それにしてもこのパイロットは「大尉」という階級にあることがわかります。

 さらに、「C TOMAS」という表記ですが、これは「トーマス・クルツ」のことではないでしょうか? 画像が小さいためにハッキリとは読み取れないのですが、1文字目は明らかに「C」「G」「O」のどれかです。MS−14パイロットのうち、「C.トーマス」に該当する人物といえば、「トーマス・クルツ」しか思い浮かびません。「トーマス・クルツ」ならば、常識的に考えて「Thomas Kultz」とでも表記されるのでしょうし、まったく別人が存在していても問題はないのですが、ここは目からウロコの落ちる方向性で考えさせてください。「クルツ」も、そんな名前が本当にあるのかどうかはともかく「Curtz」といった風に「C」で始まる表記だったこともありましょう。

 問題はその表記法です。「トーマス・クルツ」ならば、「T Curtz」とでも表記するのが普通ですが、このイラストでは「C TOMAS」と「苗字+名前」式の表記になっています。類似の例として1/144「MS−14C ゲルググキャノン」の解説書に掲載された有名なジョニーライデン少佐のイラストを見ると、「MAJ JOHNNIE RAI□□N」とあり、「Majjor(少佐) Johnnie Rai□□n(ジョニー ライデン)」という、順序としては正常な表記方法が採られています。また、現在「Jhonny Ridden」として知られるジョニー・ライデンが「Johnny Raiden」と表記されるなど、人物名の表記方法はそれほどアテにならないことがわかります。ここから考えると、ジオン軍内でも表記方法は一定しておらず、社会構造上、全人口が移民によって構成されていたコロニー社会では、言語学的な表記方法の違いがかなりあったであろうことが窺われます。また、これはE式、W式の姓名表記方法にも及んでいたようです。UC世界での姓名表記の研究に一石を投じる発見ではないでしょうか?

 さらに、「C TOMAS」が「トーマス・クルツ」だと仮定しての話ですが、あらゆる資料で彼の階級は「少尉」ないしは「中尉」として紹介されており、「大尉」という記述は見当たりません。ところが、以前、MS−14Cの二の腕に巻かれた記号を解読していく中で、MS−14C機番「58」に登場した彼こそがエース部隊「キマイラ」の第2中隊長だったのではないか?という推論に達しました。この時には、彼の階級が中隊長として当然予想される階級よりもかなり低いことが懸念されたのですが、問題の時期に彼が「大尉」に昇進していたのであれば、万事上手く解決できるのです。「少尉」「中尉」説にも「最終階級」とは書かれていません。終戦直前には戦場任官で大尉に昇進していたか、あるいは大尉扱いの中尉だったのか、詳しいことは分かりませんが、彼が大尉だったとすると、ジェラルド・サカイ大尉らと階級の上で並び、第2中隊長であっても不自然ではなくなると思うのですが、どうでしょうか?

 最後に、今回のこじつけ解釈により、彼の機体のバリエーションが一つ増えることになりそうです。問題のイラストはMS−14A、ないしはYMS−14のノンオプション状態を示しており、色調は青みが強いながらも有名なグレー塗装「58」とほぼ同じ塗りわけで、どちらかといえば「同じ塗料だけれども発色が違って見えるだけ」のようです。強いて挙げれば、襟回りがグレーで塗られていることだけが相違点です。彼の機体は同じ「58」でも「グレー濃淡2色塗装」と「茶/緑のスプリッターパターン」が知られていますが、まだカスタム化されていない状態(頭部がMS−14Cに特有のものに換装されていない)の塗装がグレー系であるということは、自ずと上記の2種の塗装にグレーから茶/緑へ変更されたのではないか?という前後関係を見いだすことになりそうです。これも長年の疑問に一定の回答をもたらすものだと思います。

■おまけ
 今回のMS−14塗装考察では「ハッチ周辺」という限定された部分に注目し、ここから最大限の情報を取り出そうとしてわけですが、その過程でジョニー・ライデン少佐の機体のそれに関しても、いくつか面白い点を発見しました。1/144「MS−14C」の解説書に見られるイラストには、大小艦艇とMSのシルエットが描かれており、陰になっていて判別できない部分もありますが、彼のスコアの内訳がある程度判明しそうです。特に注目したいのは、MSのシルエットの中に1機だけ他と異なる機体が見られることです。一体、この機体は何なのでしょうか? 個人的にはRX−77系ではないか?と思うのですが…。

 また、隣りの「V103」に搭乗するパイロットもかなりのスコアを挙げています。一体彼は何者でしょうか。また、「V103」は機番?、それともシリアルナンバーのようなものだったのでしょうか? YMS−14が103機も造られているとは思えないのですが、あるいは100の位は製造工場別の識別番号で、例えば「サイド3工廠製先行量産3号機」というような意味合いだったのでしょうか。もしそうならば、シャアのYMS−14が「V101」で「V102」〜「V125」がキマイラに配備されたのでしょうか?とにかく、色々と解釈ができそうで、これからの研究に期待が持たれます。

 考察というと、とかく膨大な資料所持が前提のように思われがちですが、1/144「MS−14Cゲルググキャノン」の解説書だけでも、かなりの考察は可能です。「自分には考察は無理」と考えて思考停止する前に、もう一度手持ちの資料の再検討をされてはどうでしょうか。きっと見落としていた情報が発見できると思います。「考察」は「考察する意思」と「考察する目」で行うと言っても過言ではありません。どんな資料も使い方次第、折檻は皆さんの考察に期待しています。


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