Z-plusのテール・レターについての考察(ver.1.0)


 ふだん何気なく見過ごしてしまっているマーキング類だが、軍用機を考察するうえで、テール・レターや機番、シリアル・ナンバーなどはきわめて重要な意味を持っている。

 これは、対象となる機体の素性がそこから判別できるからであり、これらの性格や法則がわかるようになると、それまで無味乾燥に見えていた数字や記号の羅列から、途端に生き生きとした息遣いが聞こえてくるようになるのである。

 そうはいっても、元が作り事なだけになかなか法則通りにはいかない。そればかりか、あまりに無神経な現実にかえってフラストレーションが溜まることもままある。

 しかし、だからといってそこで放り出すのは早計である。

 そんななかでも、まれにスカッとするほど上手く考察がハマることがあり、実際その楽しみのために多くの下準備や無駄な作業が楽しくこなせているとも言えるのである。

 今回はそんな数例の中から、Z-plusのテール・レターを取り上げてみたいと思う。



第一章:アムロ・レイ大尉機のマーキング
(図1)MSK-006(MSZ-006A1) KARABA AIR FORCE 18TFAS/018 Bu.No.22290D? Tail lettar「RN+PC」

 まず、(図1)を見ていただきたい。かのアムロ・レイ大尉が搭乗したといわれるMSK-006(MSZ-006A1)の、極めて初期のマーキングである。
 (出典は『Model Graphix』1986年12月号。かときすなを氏による詳細な解説とカラー塗装図が掲載されいてる)

 グレイ系2色による低視認度迷彩であり、大尉が隊長を務める18TFAS所属機の一般的な塗装である。

 テール・スタビレーター側面に大きく「RNPC」と書かれているが、このテール・レターをよく覚えておいてほしい。レターはライトグレーで記入され、パーマネント・イエローの帯上に重なる部分についてはオフホワイトとなっている。

 ちなみに、便宜上「テール・レター」と呼んでいるものの、この種のコードについて、詳しいシステムが明きらかにされているわけではない。だから厳密な意味での「テール・レター」とは呼べないかもしれないが、当時の誌上でそう解説しているのだから、呼称については最低限それを尊重するべきと考える。

 その内容についても、おそらく、部隊全機に共通するもの(後述する「AE」等)とは異なり、個体個体に順次番号が与えられていった様子が窺えることから、旧ドイツ空軍の採用したコード・レターシステムに類似したものであろう。前2桁はメーカーや工場、機種別等の大きなブロックに割り振られ、残りの下2桁がそのブロック内での機体の製造順に対応していたものと思われる。



(図2)MSK-006(MSZ-006A1) KARABA AIR FORCE 18TFAS/018 Bu.No.22290D

 次に(図2)である。塗装は異なるものの、(図1)と同一の機体と見なされており、全面グロス・インシグニア・ホワイト/インシグニア・ブルーで塗られていた。

 この塗り分けはデモンストレーション用に施されたリペイントによるものである。
 (出典は『Model Graphix』1988年12月号の「このカラーリングは2度目のリペインティングによるもので、これ以前はグロス・インシグニア・ホワイトとインシグニア・ブルーによる同様の塗り分けであった。」とする記述による)

 なお、パーソナル・マーク「A」の直後に書き込まれた「AE」は「アウドムラ」所属を表す。誤解されやすいが、決して「アナハイム・エレクトロニクス」の意味ではない。
(出典は『Model Graphix』1988年12月号掲載の「テールスタビレーターにはテールレターとして、アウドムラ所属を示すAEとパーソナルマークが。」とする記述から)



(図3)MSK-006(MSZ-006A1) KARABA AIR FORCE 18TFAS/018 Bu.No.22290D

 さらに(図3)。(図1・2)と同一の機体であり、(図2)でインシグニア・ブルーで塗られていた部分が、インターナショナル・オレンジに変更されている。アムロ・レイ大尉機として最も有名なのが、このカラーリングであろう。
 (初出は『Model Graphix』1988年12月号)

 パーソナル・マークの前、アンテナ用バルジのすぐ下に「018」「TFAS」と書かれているが、このうち「018」には注意が必要である。

 一見して「18TFAS」を示すものとも取れるが、同じ18TFASに所属しながら、ここに016と記入している機体(図5)が存在することからも明らかなように、これは「18号機」を意味するものである。

 さて、以上がアムロ・レイ大尉乗機とされるアナハイム・エレクトロニクス社カリフォルニア工場製MSK-006機番「018」のカラーリングの変遷であるが、その後の同機の消息については明らかになっていない。つまり、彼がいつまでもこの機体に乗り続けたとする根拠はないのである。

 そうした一方で、この時期の大尉は多忙を極め、実際には飛行隊長としての活動はしておらず、専ら同機を使ったテストと戦技研究を行っていたに過ぎないという説すらある(マスターグレード「MSZ-006A1」解説書参照)。

 とすれば、テスト終了後、同機「018」は大尉以外のパイロットの乗機となったことも十分に考えられるうえ、各資料を総合すれば、実際その可能性の方が高いように思われる。気になる命題であるが、果たして、我々にそれを知る術はあるのだろうか?



第二章:ビュー・ロナンバーとテール・レター

 結論を急がず、もう少しサンプルを分析してみよう。

 まずは赤枠で囲った(図4)を見る前に、先に(図5)をご覧いただきたい。

 先の「018」号機とは異なり、18TFAS所属機の一般的なカウンター・シェイド迷彩が施された「016」号機である。パイロット等の詳細は不明であるが、ビューロ・ナンバーが判明しており、資料によると「Bu.No.22288A」であったとされる。
 (出典は『Model Graphix』1988年12月号)

 ちなみに、ビューロ・ナンバー(Bu.No.は省略形)とは、軍の受領機1機1機に与えられる通し番号のことであり、カラバの場合も同様のシステムに準じているものと推測される。

 試みに018号機の「Bu.No.22290D」と照らし合わせても「016」と「018」の2つ違いに対し、「22288」と「22290」も同じく2つ違いであり、実に上手く符号していることがわかる。
(末尾のアルファベットは上手く符号しなかった。今後の研究課題としたい)



(図4)MSK-006(MSZ-006A1) KARABA AIR FORCE 18TFAS/016 Bu.No.22288A Eary color?

(図5)MSK-006(MSZ-006A1) KARABA AIR FORCE 18TFAS/016 Bu.No.22288A




さて、ここで機番「018」のテール・レターが「RNPC」であったことを思い出してほしい。

 本来の性質は異なるものの、このように「軍用機1機1機に順に与えられる記号」が、一飛行隊程度のごく狭い範囲で大きく前後する必要は特にない。しかも、このときのMSK-006はカラバ空軍の最新鋭機であり、その実戦部隊は第18TFASしか存在しないのである。

 もちろん、いくらかの機体は完成したものの軍には納入されずメーカー・サイドでテストに回されたり、不具合の発生によって領収が遅れ、レターとビューロ・ナンバーが前後したりする可能性もないとは言えない。しかし、それらはすべてアクシデントやハプニングに属する出来事であって、意図してそうする必要があったとは思われない。

 可能性としてもっとも高いのは「整然としてテール・レターとビューロ・ナンバーが符号している」状態であろう。

 とすれば、いまだ明らかとなっていない、「016」号機(「Bu.No.22288A」)のテール・レターとして、もっとも相応しいのはどんな組み合わせだろうか?

 考えるまでもない。

 機番「018」「2」つ前に配備されたと思しき機番「016」である。「Bu.No.22290D」から「2」を引いた「Bu.No.22288A」同様、「RNPC」から「2」つ遡った「RNPA」以外に、明確な根拠をもって提示できるレターがあるだろうか。

 こうした推測の元に作図したのが機番「016」の領収時塗装推定図(図4)である。また、必然的に機番「017」のテール・レターも「RNPB」であったことが推測できるのである。

 以下はこうした考察をもとに作成した、機番とビューロ・ナンバーの対照表である。

機番/ビューロ・ナンバー対照表
機番 Bu.No
016 22288A
017? 22289?
018 22290D



第三章:α任務部隊

 ここで少し目先を変え、U.C.0087年3月、ニューディサイズ討伐のために急遽α任務部隊へと配備された2機のMSZ-006C1について考えてみたい。

 ご存知の通り、MSZ-006C1はカラバの採用したMSK-006(MSZ-006A1)に着目した地球連邦軍が、優れた基本設計はそのままに、省かれていた宇宙用装備を再び加え、改めて採用した機体である。

 これらは強襲巡洋艦「ペガサス(III)」の第110MS中隊に配備され、その後はテックス・ウェスト宇宙軍少尉、シグマン・シェイド宇宙軍少尉らの乗機として使用されることとなる。

 2機のMSZ-006C1には、カラバのMSK-006(MSZ-006A1)と同様の低視認度迷彩が施され、テール・レターも復活。同時に配備されたMSA-0011"Sガンダム"が機番「01」を与えられたため、2機のMSZ-006C1には、機番としてそれぞれ「02」「03」が割り振られた。


 ところが、このうちの最低1機はA1型として一度ロールアウトしたもので、カラバ空軍で使用された後、C1型に改造され、連邦軍に納品されたものである可能性が高い。

 テックス・ウェスト少尉が専任パイロットとなった機番「02」は、テール・レターが「RNPB」で、その概要は(図6)に示した通りである。同様に、シグマン・シェイド少尉の機番「03」は、テール・レター「RNPC」となっている。

 

(図6)MSZ-006C1 E.F.S.F."TASK FORCE α" 110Sq./02 Tail lettar「RNPB」


(図7)MSZ-006C1 E.F.S.F."TASK FORCE α" 110Sq./03 Tail lettar「RNPC」



 どうだろうか?
 拙稿をここまで辛抱して読んでいただいた方であれば、「RNPB」「RNPC」といったテール・レターに心当たりがあるはずである。

 そう、上の「機番/ビューロ・ナンバー対照表」でも指摘したとおり、「RNP?」はカラバ空軍に納入され、「アウドムラ」の第18TFASに所属したMSK-006(MSZ-006A1)に特有のレターなのである。

 それが何故、MSZ-006C1として存在し、地球連邦宇宙軍所属の「ペガサス(III)」に配備されているのか?

 疑問はこの2点に集約される。



 結論から先に言おう。

 U.C.0087年3月、急遽編成されたα任務部隊には、2機のMSZ-006C1が配備されたが、このうちの最低1機(おそらく2機)はA1型として一度ロールアウトしたもので、カラバ空軍でごく短期間使用された後、C1型に改造され、連邦軍に納品されたものである可能性が高い。

 配備された機体は、017号機「RNPB」018号機「RNPC」であり、017号機「RNPB」はカラバに納入されることなく宇宙用C1型のテストベッドとなった可能性を残すものの、018号機「RNPC」については、まず間違いなく結成当初の18TFASに配備され、アムロ・レイ大尉の手で使用された機体である。

 問題の機体は戦技研究やデータ取りのために有効に活用されたようであるが、おそらくその後にメーカー側へ引き取られ、017号機に準じた改修を施されると、MSZ-006C1として地球連邦軍α任務部隊へ緊急配備されたのであろう。


 これらの機体のその後であるが、元「017」号機「RNPB」はテックス・ウェスト少尉が"Gボマー"のパイロットとして転出した後、元MSA-007"ネロ"隊のチュン・ユン中尉の乗機となり、惜しくもニューディサイズとの戦闘中に撃破されている。

 もう一機の元「018」号機、アムロ・レイ大尉も搭乗した「RNPC」であるが、こちらはシグマン・シェイド少尉の操縦によって動乱を生き抜き、MSA-0011"Sガンダム"と共に地球へと降下、北極海付近を周回中のガルダ型輸送機に救助された。その後の消息は不明だが、少なくともひとつの戦いを潜り抜けることには成功したようである。


 そろそろまとめに入ろう。
 今回のミソは、「テール・レター」や「ビューロ・ナンバー」といった登録記号をどう読み解くか?である。

 これら「一機一機それぞれ個別に付与されるべき記号」は、いわば”機体の履歴書”ともいえるものであり、丁寧に検証してやることで意外に多くの情報を我々に与えてくれる。

 かといって、「特に何をせねばならない」というわけもはない。研究者はその「物言わぬ主張」にただ耳を傾けてやれば良いのである。

 最初に指摘したとおり、この手の研究手法は送り手側に「提供している」という意識が働いていない場合の方が圧倒的に多く、確かに上手くいかないことも多い。

 しかし、それでもなおこうした記号の特性を十分に理解し、日頃から気をつけて見ていれば、これまで何気なく見過ごしてきた情報の中にも、十分に研究テーマとなり得るだけのデータがみつかるはずである。

 私は今回「Zプラスのテール・レター」に注目したわけであるが、今後これ以外にもこういった「マーキング」に関する研究が深まってくれれば、時間は必要だろうが、送り手側にも相応の意識が生まれてくるであろうし、そうなれば自分自身のフラストレーションも少しは減ろうというものである。

 最終的には、MSやその他の機体の塗装とマーキングについて世間の注目が高まり、一冊の本が出せるくらいに情報が集積される時代が到来すれば…

 根っからの「塗装とマーキング」マニアな私としては、やはりどうしてもこう願わずにはいられないのである。

■おまけ

拡大版「機番/ビューロ・ナンバー対照表」
所属 部隊 機番 Bu.No. 型式 レター 所属 部隊 機番 型式
KARABA AIR FORCE 18TFAS 01 22273 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 02 22274 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 03 22275 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 04 22276 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 05 22277 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 06 22278 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 07 22279 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 08 22280 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 09 22281 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 10 22282 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 11 22283 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 12 22284 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 13 22285 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 14 22286 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 15 22287 A1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 16 22288 A1 RNPA
KARABA AIR FORCE 18TFAS 17 22289 A1 RNPB EFSF TFα 02 C1
KARABA AIR FORCE 18TFAS 18 22290 A1 RNPC EFSF TFα 03 C1
RNPD
RNPE
RNPF
RNPG
RNPH
RNPI
RNNE 29 C4

※作例を全て肯定しようとするなら、RNPCが「02」号機であった時期も存在したということになる。


主要参考文献

『Model Graphix』
vol.26 1986年12月号
vol.50 1988年12月号
1/144「MSZ-0006C1」
解説書
1/100MG
「MSZ-006A1」解説書
「MSZ-006C1」解説書