MT−S14S系MS開発史


 ザンスカール系のMSはZMT−S29「ザンネック」、地上侵攻用特殊装備「アインラッド」等、独特のリング状メガ粒子加速器が一つの特徴となっているが、これは小型の機体に無理なく組み込むほどには小型化されておらず、本国防空用のZM−S19S「シャイターン」では要求された8門のビーム砲を稼動させるための加速器が全体のバランスを崩し、極めて機動性の低い機体となってしまっていた。具体的にはコクピット、メインジェネレーターを避けるかたちで胸部加速器を縦置きに2基配置したため上半身が肥大し、腕部駆動系基部はリング状の加速器の内部に無理矢理組み込まれたため可動範囲が大幅に制限されてしまった。また、主兵装である背部ビーム砲はランドセルをいたずらに大型化させ、結果的にプロペラント容量の減少を招いた他、狭い艦内での取り回しを不便にする原因ともなった。このためZM−S19Sの生産は少数で打ち切られ、大火力を生かした移動砲台として首都防衛用に若干数が配備されるにとどまった。

 形式番号はZM−S19Sに先行するが、高性能の小型メガ粒子加速器の実用化を見越して設計された攻撃型重MS、ZMT−S14S「コンティオ」は新型加速器の実用化が遅れたため完成が遅れ、後発機ZM−S19Sの後にロールアウトした。この小型加速器の完成が遅れた背景には、当時、地球浄化作戦用に開発が進められていた特殊装備「アインラッド」用の大型加速器の完成が優先されたという事情があったと思われる。このため技術者、研究施設の大部分が機密保持のために外界から遮断され、平行して進められていた幾つかのプランは、大幅な遅れを喫することになったようである。ZMT−S14S開発スタッフはこのため実機の完成を一時棚上げし、基礎設計をブラッシュアップした発展機の設計に着手することとなった。これが後のZM−S20S「ジャバコ」、ZMT−S34S「リグ・コンティオ」であるが、それはまた先の話である。

 アインラッド用粒子加速器開発のため大幅に遅れていた小型メガ粒子加速器の実用化であったが、0153年3月末、ないし4月始めには試作型が完成したものと思われる。この加速器は既に機体構造の完成していたZMT−S14S試作機3機に搭載され、カイラスギリー要塞に搬入後、直ちにテストを開始した。4月27日のカイラスギリー攻防戦ではこのうちの1番機が実戦に参加している。このZMT−S14S試作機ではZM−S19Sのビームシールド発生器を流用していたため、シールド面の形成方向が後の量産型とは異なるが、取り回しに不都合があったためカイラスギリー戦後に改修され、量産型では安価で入手の容易なZM−S06S系の部品を採用している。

 ZMT−S14S「コンティオ」は、小型メガ粒子加速器を内蔵し、ビームライフル、ビームサーベル、ビームクローと局面に応じて多目的に使用できる有線式兵装「ショット・クロー」を両肩に装備し、極めて攻撃的な機体として設計されている。また、両肩のショット・クローと同系列のリング状粒子加速器を胸部にも横置きに配置し、強力な内蔵式ビーム砲3門を固定武装とするなど、攻撃力は他を寄せ付けない高いレベルを実現している。さらに、胸部ビーム砲には同軸式サーチビームも備えられ、長距離射撃時においても高精度の射撃が可能である。

 これらのメガ粒子加速器の配置に関しても細心の注意が払われており、同時期に設計されたZM−S19Sに比べ、はるかに洗練されている。両肩の加速器はショット・クローと共にコンパクトにまとめられ、有線式攻撃デバイスとして往年の「インコム・システム」なみのオールレンジ攻撃を可能にしている。また、胸部加速器も横置き式にすることで機体中心軸上の配置を可能にしている。このため、コクピットへのエントランスは機体後部に設置されることになったが、重くかさばる加速器を重心近くにコンパクトにまとめたことによって機体バランスは極めて高い次元でまとめられている。

 ZMT−S14S「コンティオ」先行量産型はアマルテア級3番艦「アマザス」に6機が配備された。3、4番機が機種転換訓練中に破損したが、4機が5月4日の「リーンホースJr.」攻撃に参加している。この作戦では1機が中破したが、全機が帰還し、高い耐久性を早くも実戦で証明している。ZMT−S14Sの量産は5月中には開始されたと思われるが、まもなく主戦場が地上に移ったため、量産機にはほとんど活躍の場が与えられなかった。

 ZMT−S14Sを母体に、地球浄化作戦にむけて接近戦用に開発された機体がZM−S20S「ジャバコ」である。地上での使用を前提としているためショットクローは装備せず、また、アインラッド上での運用を考慮して固定武装の胸部ビーム砲も撤去された。代わってマニピュレーターには接近戦用のヒートロッドが装備され、防御力強化のため、一部にスペースドアーマーが採用されている。地球浄化作戦用に少数が生産されたが、ZMT−S14Sの長所を何一つ受け継がず、特に見るべきもののない機体であったため量産発注は取り消され、主力機の座はZM−S24G「ゲドラフ」と上級機ZM−S21G「ブルッケング」、数的不足を補うために大量発注されたZM−S06Sの改修機ZM−S06G「ゾリディア」に奪われることとなった。既に完成していた機体は汎用(宇宙用)に改修され、形式番号にも宇宙用を表す「S」表記が加えられた。後にこの全領域での汎用性を活かし、主戦場が衛星軌道上から大気圏内へと及んだエンジェル・ハイロゥ攻防戦に参加して戦果を挙げているが、これはあくまで結果論である。それ以外の戦場で使用された結果は惨澹たるものであった。

 ZM−S20Sは事実上の失敗作であったが、これはもともと軍のコンペティションに応募するために急遽設計された急造の機体であり、このような結果になるであろうことは開発チーム内でも予想されていた。それというのも、当時、ZMT−S14Sの真の後継機と呼べる機体の設計が既に始まっており、開発チームはその機体に全力を注いでいたからである。

 ZMT−S14Sの開発は、新型メガ粒子加速器の実用化に目処が立たない状況下で進められた。しかし、実機を使用してのテストができないことから、非武装の機体を使用したトライアルで発覚した問題点の改修や、新技術の検証を目的とした改良型の設計が開始された。この機体が後のZMT−S34S「リグ・コンティオ」であり、事実上ザンスカール帝国が実戦に投入した最後のMSである。基本設計はZMT−S14Sのそれを踏襲しており、アインラッドの使用は考慮されていないが、それを補って余りある機動性と攻撃力を単独で実現していた。

 主兵装であるショット・クローは大型化とともに機構が見直され、さらに攻撃の自由度が高まっている。また、オプション兵装としてヴァリアブル・メガ・ビームランチャーが用意され、白兵戦のみならず長距離砲撃戦にも対応している。胸部の加速器のレイアウトも変更され、横置き加速器の倒立角を大きく取ることで前下方視界を確保している。これらの処置は加速器のリングを強化した改良型加速器の搭載を見越しての設計である。実用化の目処の立たない新技術をあてにした開発計画は、この開発チームの悪癖でもあるのだが、逆に一歩先を行く機体を開発することにも繋がっていた。実際、一面では堅実な現実感覚も持ち合わせており、マニピュレーター部などは同時期に開発されていたZMT−S33S「ゴトラタン」のものをそのまま流用している。全ての開発チームがこれでは困るが、常に先進的設計に挑むこの姿勢は、もっと評価されてもよいだろう。

 ZMT−S34Sは試作機1機が「AH作戦」に伴い試験的に投入され、6月23日の「エンジェル・ハイロゥ攻防戦」ではリガミリティア艦隊旗艦「リーンホースJr.」を戦闘不能にするなど目覚しい活躍を示した。しかし、この戦いでザンスカール帝国が事実上崩壊したため、MS戦を伴った大規模な戦術展開は不可能となり、ZMT−S34Sも量産発注は取り消された。ZMT−S34S試作1号機もこの戦いで撃墜され、コンティオ一族の歴史は「エンジェル・ハィロゥ」とともに、完全にその力を発揮することなく、不本意な終焉を迎えることになったのである。


<補足・リング状メガ粒子加速器の系譜>

 MS搭載用のメガ粒子加速器は重くかさばるため、ザンスカール帝国以外ではあまり搭載例がない。ザンスカールでもZM−S19Sなど、加速器の搭載によってかえって失敗した機体もあり、攻撃力だけの強化が機体のポテンシャル向上には直結せず、逆に機動力、防御力の低下にも繋がることが判明していた。

 このジレンマを解決したのが、属領のマケドニアで設計されたZMT−S29「ザンネック」である。ZMT−S29では粒子加速器を外装式に装備し、Iフィールドのみでこれを保持・制御しているため、デッドウェイトは極端に小さく抑えられている。もともとメガ粒子の加速にはIフィールド制御が応用されており、研究室レベルではIフィールド制御加速器も実現していたが、技術的側面よりも「実戦用MS」という運用上の制約がIフィールド加速器の採用に二の足を踏ませていた。実戦という過酷な状況下で正常に作動しない機構など、実戦機の装備としては意味をなさないからである。それを、超長距離狙撃用MSの実用化のため、試作機とはいえ実戦機で初めて採用したのがZMT−S29であった。しかし、ZMT−S29は極めて使用環境を限定した局地戦用機であり、「衛星軌道からの地上目標の狙撃」という、ほぼ同様の目的で建造されたカイラスギリー(ビッグキャノン)の失陥がなければ、実機が完成することさえなかったであろうことは想像に難くない。そのため、汎用性はなきに等しく、極論すればZMT−S29は「MS」ではなく、小型のビッグキャノンを曳航するため に創出された単なる牽引車でしかなかったのである。こうした事実は実機完成以前に既に指摘されていたことであり、この時の反省点は後のZMT−S33S「ゴトラタン」設計時に大いに参考にされたと思われる。

 ZMT−S29が汎用性とは対局にあったのに対し、最優先で汎用性を求めたのがMS用特殊装備「アインラッド」である。「アインラッド」は特定の規格に準じて設計されたMSであれば、ほぼ全てのMSに装備できた。武装は巨大なリング状粒子加速器を備えた連装メガ粒子砲、9連装多目的ミサイルランチャーを備え、MS固有の武装も加えれば、当時の量産機としては十分な攻撃力を持っている。また、防御にあたっては高度なIフィールド制御技術を駆使し、あらゆる攻撃に対して鉄壁の防御力を誇っていた。メガ粒子加速器でもある巨大な一輪車「アインラッド」には、これを取り巻くようにIフィールドの力場が形成され、粒子加速器でもある内部のメガ粒子封じ込めとともに、外部からの攻撃に対してはIフィールドジェネレーターに似た防御効果を発揮するのである。これにMS固有のビームシールドを合わせれば、ほぼ全方位からの攻撃を無効化することが可能であった。さらに、重力下においてはビームローターと同様にサブフライトシステムとしても運用することができ、MSの運用の幅を飛躍的に拡大させたのである。「アインラッド」はモトラッド艦隊に試験的に配備されて絶大 な効果を発揮したため、同艦隊において改良型の「ツインラッド」の開発も行われたという。


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