海洋堂 パワードスーツ の衝撃

 
 とこしえに栄光みつる歩兵よ 
 その名を輝かしめよ
ロジャー・ヤングの名を
 
 
 パワードスーツといえば、やはり加藤直之氏によって描かれた、あの武骨なものが思い浮かびます。初めて「宇宙の戦士」を文庫で読んだときは、まだ高校生でしたから、内容どうこうよりも、なにしろイラストのかっこよさに参ってしまったものでした。
 
 さて、そのパワードスーツ、過去に何度か立体化されています。まずは、かつてゼネラル・プロダクツが会員限定で発売していた1/25メタルキット(当時2500円)
 
ゼネラルプロダクツ 1/25パワードスーツ

 

 高さ100 mmほどの小さなキットでしたが、ホワイトメタル製だけのことはあって、ディテールはなかなかのものでした。このキットは85年頃に購入して製作したものです。
 余談ですが、このキット最近は受難続きでありまして…もう1年ほど前になりますが、鳥取県西部地震で震度5の揺れに見まわれたとき、飾ってあった棚から転げ落ちてバラバラになってしまいました。なにしろ瞬間接着剤で組み立ててありますから、衝撃には弱いのです。なんとか修正して再び飾ったのですが、すぐに震度4の余震が来まして…どうも、このモデル、震度4以上の地震に遭うと倒れてしまうようであります。かれこれ5回ぐらいは落ちて、直してを繰り返したでしょうか、おかげで塗装がはげたりポーズがおかしくなったりしてしまいました。
 

 
 その後、ゼネラルプロダクツからはもっとスケールの大きなソフビモデルが発売されていたはずですが、こちらは私は入手していません。
 あとの変わり種としては、やはりゼネラルプロダクツの会報の付録として付いていたペーパーキットでしょうか。こっちも私は未組立です。
 
ゼネラルプロダクツ ペーパーキット パワードスーツ
 
ちなみに、A4 3枚組です
 

 
 さてさて、それはおきまして…
 
 2001年度の日本SF大会の目玉企画として、海洋堂のアクション・フィギュア「パワードスーツ」初お目見え。しかも定価5800円のところ4000円で販売というのがありました。
 
 ディーラーズ・ルームの海洋堂ブースはパワードスーツが山積みでありまして、朝から買い求める人がひっきりなしでありました。私も自分の分と知人へ送る分の2個を速攻でGetした次第です。なんでも、この日200個用意したものが、夕方までには売り切れていたのだとか。しかも、その200個は中国の工場から空輸されて、成田から直行で会場へ搬入された正にロールアウトほやほやのものだったそうであります。
 
 全長約150 mm、これが海洋堂のパワードスーツ
 

 そんなお話しは、この日の夜に行われた企画「深夜の模型談義」で聴くことのできたものです。
 

 
 私のSF大会レポートでも書いていますが、模型ライターの あさのまさひこ 氏、海洋堂の宮脇修一氏、原型師の東海村原八氏、そして飛び入り参加のデザイナー/イラストレーターの加藤直之氏というメンバーで、パワードスーツの開発秘話が披露されました。ここでは、なんといっても加藤氏のメカデザインに対するお話しを興味深くききました。あくまでも人が入って動かすということを前提に、整合性を追求するその姿勢は感動的でありました。また、宮脇氏や東海村氏の語られた海洋堂のパワードスーツに対する思い入れといったことも印象に残りました。
 ここでは、この企画のなかで語られた内容を思いつくままに記録しておこうと思います。
 当日録音でもしておけばよかったと思うのですが、とりあえずは乏しいメモと当時の記憶で書き起こします。とはいえ、もう2週間前のことですので、記憶の誤りなどもあるかもしれません。その点はあらかじめご承知おきください。
 
企画
 この企画は数年前に持ち上がったもの。はじめは普通に原型師が製作してそれを型どりするという一般的な手法をとるつもりだった。加藤氏の元に他社から発売されていたモデルなどを持ち込んで意見を求めたところ、やはりそれらは宮武一貴氏のデザインをモチーフにしたもので、加藤氏のイメージするものとは微妙に異なっていた。
 …で、結局加藤氏がCGでモデリングしたものを立体物として起こすということになった。
 
 企画から実現まで3〜4年かかってしまったが、その間に中国での生産などのノウハウが海洋堂のなかで確立されたことで、結果的に満足のいく製品を発売することができた。
 
モデリング〜造形
 加藤氏は3DCGアプリケーションShadeでモデリングを行う。原型の加工はRoland社の3Dプロッタで行う。原型担当の東海村氏は、加藤氏のモデルデータをDXF(汎用のCADデータ形式のひとつ)に変換した後、更に3Dプロッタへ送る形式のデータに変換して原型の加工を実行する。
 
 ここで問題になるのは、加藤氏のモデルはフルスケールで作られているのに対して、実際のモデルは1/20スケール(なんでも、日東のSF3D〜今ではマシーネン・クリーガーでしたっけ? と戦わせるのを想定してスケールを決めたとか) で加工しなければならないため、スケールダウンする処理を行わなければならないこと。単純に1/20にしただけでは、不具合が生じる。たとえば、もともとの厚さが10 mmぐらいで設計してある部分は、0.5 mmになってしまう。これでは強度を保つことができない部分が生じる。
 
 とはいえ、このあたりは東海村氏が相当苦労を重ねられて、できるだけ加藤氏の作ったモデルの整合性を失わせないように処理されたとのこと。唯一の妥協点は、ヒジの関節。ここはさすがにデザイン通りに作るとコストが見合わないので、下図のような構造になってしまった。
 
 
ヒジ関節がボールジョイントになってます。スーツ内部には人の腕があるから、実際にはこのような構造にはならないわけです
 
 
その設計過程
 加藤氏は、とにかく人が中に入って操作できるという点にこだわってデザインされたようです。加藤氏によれば、今まで流布しているパワードスーツの3面図はどちらかといえば宮武氏のデザインイメージに近いとか。そのデザインでは、腰と脚部の接合部に関して人間が入るのには不都合がありそうだとのこと。
 
 従来の2足歩行ロボットは足が大きすぎるというのが加藤氏の意見。あまりに足が大きいと歩行時に両足が干渉してしまう可能性がある。このため、パワードスーツでは足が比較的小さくてヘッドヘヴィのイメージになっている。
 
 人間が入ることを考えると、腰の部分にひねり・ねじりの動作をさせるような関節を設けることはできなかった。そこで、腰に関しては前後に倒れる動きしかできないようになっている。
 しかし、これでは地面にあるタマゴを拾うという動作をさせるためには腕をかなり長くしなければならない。
 

これがタマゴを拾う動作。ちゃんとタマゴを持った手がオプションパーツとしてついているあたりがなんというか…

ちなみに、このモデルではこの体勢が限界でした。

 
 タマゴをとるか、モデルのプロポーションをとるかで悩んだ末に、最終的な解釈として、ある程度まで身体を傾けた状態でバーニアを噴射、そのバーニヤのコントロールによってスーツが地面に倒れることなく、タマゴを拾うという動作を行うということにしたのだとか。それにしても…タマゴ1個にこんなにこだわるとは…もう、この辺は感動の拍手でした。
 
 大腿部の関節に関しては、前後に荷重を支える構造材があって、ジャバラ状の部分は単に覆っているだけである。(上半身の荷重を支えるには、可動するジャバラでは弱すぎるので、内部に何か構造材が必要なのだと私は解釈しました)
 
 CGモデリングでも、各関節部が曲がって干渉した場合に関節の装甲部分がスライドするように設計している。
 
 当初はハッチがオープンしたときにバズーカが後ろに残るということを想定していなかった。今回のことがきっかけで、バズーカのマウント部の考証ができた。
 
 
 加藤氏のお話からは、自分の考証やこだわりに縛られつつ設計を行うことの面白さがひしひしと伝わってきました。
 
 
・パッケージへのこだわり
 宮脇氏によれば、従来の海洋堂のコンセプトは、とにかく造形物が全てであり、パッケージは二の次であったとのこと。部品点数を増やすことによるコスト増大は気にしないが、パッケージにお金をかけるなどもってのほかという感じだったとか。このあたりは、15年ほど前のゼネラルプロダクツの姿勢とは対極的なものがあった。
 しかし、今回のパワードスーツでは特にパッケージや付属品にもこだわってみたそうです。

 というわけで、従来の海洋堂ならばブリスターパックみたいな感じになっていたところを、このパワードスーツではかなり大きな箱入りになっています。(おかげで持ち帰るのが大変でした) イメージとしては、カメラの箱だとか。 箱を開けて思わずニヤリとしたのは、パワードスーツが梱包されている透明のパッケージが降下カプセルを模した形状になっていたことでした。 説明書を兼ねる小冊子の内容もなかなか濃いものでした。

 このパッケージ談義では、デザインを担当した方の飛び入り参加もあって盛り上がりました。

・その他、思いつくままに…

 実物を手にした加藤氏の感想「全体のバランスはgood、ただ細部では修正したいところもある」
 
 東海村氏がバズーカ部の修正を行ったところ、背部のYラックとバズーカが干渉してしまい,バズーカがほとんど動かなくなってしまった。
 
 パワードスーツは米陸軍のジープだというイメージから、その色はオリーブドラブ(グンゼMr.カラーの38番)にしてみた。
 
 原型は可能な限り加藤氏のモデリングを再現している。たとえば、バックパックは一見単純な直方体に見えるが、実は複雑な形状の部品がいくつか組合わさって直方体状になっている。興味があれば一度分解してパーツ構成を確かめてみて欲しい。
 できれば組立モデルも発売したいくらいだ。(会場から、パーツ状態のモデルも発売して欲しいとの意見も出ました)
 
 宮脇氏のような模型畑の人間としては、塗装を変えたりオプションを付けたりしていろいろなバリエーションで楽しみたいという考えもあった。これに対して加藤氏はバリエーションといったことにあまり興味を示さない。「それは原作にないでしょう」とのこと。
 

 

 
 というわけで、皆様も一個小隊ぐらい買いましょう。
 
 個人的には、1/12スケールぐらいの組立キット希望ですね。
 

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