井上雅夫氏の愛おしき怪獣世界 

 

 私と同年代ぐらいの同好の士の方であれば、イノウエアーツ/井上雅夫の名前にある種のときめきを覚える人も少なくないのではないかと思います。私のような田舎住まいの中学生・高校生が「ガレージキット」という言葉を耳にするようになったのは1983年頃だったように記憶しています。その背景には、海洋堂やボークス、それにゼネラルプロダクツといったメーカーの台頭もありましたし、ホビージャパンや宇宙船といった雑誌でアマチュアやセミプロの模型作品が積極的に採り上げられたといったこともあったように思います。ホビージャパン誌は、ガンプラをフィーチャーした特集を多く組み、伝説的なHOW TO BUILD GUNDAMなどを世に送り出しましたし、また宇宙船は怪獣やSF系のキャラクターモデルを主体に別冊誌まで刊行しました。

 さて、宇宙船やその別冊に掲載された作品やガレージキットのなかで、とりわけ異彩を放ち、強烈な存在感を持っていたのが井上雅夫氏の作品群でした。巨大にして繊細なモスゴジやキンゴジは圧倒的な魅力を放っていました。

 しかしながら、当時はガレージキットは非常に高価なものであり、中高生の小遣いではとても買えるものではありませんでした。ましてや、全長が50センチから1メートル近いようなイノウエアーツ作品のキャストキットはとても手が出るようなものではありませんでした。

 1987年頃だったでしょうか、怪獣のガレージモデルの素材としてソフトビニールが使われるようになってきました。なんといっても安いのが魅力でありまして、全長30センチ程度のものならば数千円、1メートル近いものでも1万円から2万円程度で購入できるようになったことで、ずいぶんとユーザーのすそ野が広がったのではないかと思います。かく言う私もその恩恵をこうむった一人であります。

 もともとキャストやFRP(!)で発売されていたイノウエアーツ作品も徐々にソフビキットの再販品が発売されるようになってきました。私のような貧乏学生でも井上氏の作品を手元に置くことができるようになったのです。(パオパオワンダーランド原型師列伝では、井上氏がその筆頭に採り上げられています。その記事によれば、ソフビはひずみが出たり、原型に対して収縮したりするためか、あまりソフビはお好きではなく、今後作品をリリースすることがあってもソフビ化は考えていらっしゃらないのだそうですが)

 というわけで、90年代に入って出張などで大阪に行くたびに梅田のホビットに行って井上氏のゴジラなどを購入してきました。私の部屋には現在10体を超えるゴジラがいるのですが、そのほとんどが井上氏の作品です。もっとも、イノウエアーツブランドのキャスト品は一点もなく、全てソフビのものではありますが…

 というわけで、私の手元にある井上氏のキットを、氏に対する敬愛の意を込めて列挙してみようと思います。


キンゴジ/ウェーブ/1988年頃購入/6000円(?)


      

 井上氏といえばキンゴジというイメージがあるのですが、大きさといいディテールといい、井上氏のキンゴジの魅力をあますところなく表しているキットであると思っています。またこれは、私が初めて作ったゴジラのガレージキットでもあり、個人的にも思い入れの深いものです。高さは40センチほどです。

 私が井上氏のゴジラの特徴だと思うのは、尻尾が接地していないということです。他のゴジラキットでは、尻尾を接地させることで安定性を保っているのですが、井上氏のゴジラはあえて尻尾を振り上げたポーズにして、ゴジラのダイナミズムを表現しているように思います。ところが、やはり尻尾が接地しないと安定させることはなかなか難しいのですね…このゴジラを作るにあたっても、脚部にかなりおもりを入れてなんとか立たせています。(ですから、ソフビキットにしてはずいぶん重いものになっています) とはいえ、それだけのことをやった価値はあるのではないかと思います。


初代ゴジラ/ファルシオン/1990年頃購入/9800円


  

 「ファルシオン」の項でも採り上げましたが、高さ50センチの初代ゴジラです。このゴジラは尻尾が接地してますね…同じ原型のキットがパラダイスからも出ていたようです。また、マルイから出ているラジコンの初代ゴジラも同じ原型なのではないかと思います。


熱海城キンゴジ/パラダイス

    

 これは比較的最近購入したものだったような記憶があります。

 井上氏のキンゴジといえば、「熱海城キンゴジ」とか「NATO基地を襲う」とかいったタイトルが付いているのですが、このキンゴジがどれに相当するかというのは定かではありません。(おそらく、「熱海城」だと思うんですが…) 全高は30センチほどで、井上氏作品からすれば小振りかもしれませんが、私が所有しているキンゴジのなかではポーズとかバランスがいちばん整っている作品だと思っています。

    

   ふと思い立って、熱海城キンゴジをもう一体購入してしまいました。購入してから半年以上押入の肥やしにしていたのですが、2003年の最初の模型作りということで、熱海城キンゴジに再挑戦してみました。以前に作ったものと、多少塗装の雰囲気を変えてみようと思ったのですが、なんだか一緒になってしまいました…


キンゴジ/パラダイス

    

 このキンゴジも全高は30センチほど。(たぶん、「NATOキンゴジだと思います) 尻尾が大きく振り上げられているのが特徴で、両足だけで立たせるためには脚のなかのおもりだけでは足らず、ずいぶん前傾姿勢にしてしまいました。


モスゴジ/パラダイス

    

    

 これも全高30センチのモスゴジです。このモスゴジの顔つきや体表表現などはゴジラのもつ荒々しさを見事に具象化していると思います。真ん中の写真のアングルから見たゴジラの表情は数あるゴジラモデルの中でも屈指のものでありましょう。

 それにしても、井上氏は尻尾の表現がうまいなあと思ってしまいます。静的なポーズでありながら、尻尾の演技で全体の印象を引き締めているように感じます。この作品では、さすがに両足だけで立たせることはできず、結局尻尾を支えざるを得ませんでした。

 最近、再び思い立ってこのモスゴジをもう一度作ってみることにしました。その顛末はイノウエアーツのモスゴジに再挑戦のページをご覧下さい。10年ほど前に作ったのが上の段写真、今回作ったのが下の段の写真です。ちょっとは腕に進歩が見られるでしょうか…

    

   以前に作ったモスゴジは、筆塗りでどうも塗装が気に入らなかったのでリペイントしてみることにしました。これも、新しく作ったものと雰囲気を変えてみようとしたのですが、やっぱり何だか同じような感じになってしまいました。(体色を少し緑っぽくしてみたつもりだったのですが…)


ビオゴジ/パラダイス

  

 全高50センチのビオゴジですが…とにかく尻尾が長い! 尻尾まで含めると1メートル近くあります。この作品も尻尾をアクリルのバーで支えています。上述の「パオパオワンダーランド・原型師列伝」によれば、現在のところガレージキットとして流通している井上氏の作品の内では最も新しいものであるとのことです。その後海底軍艦withマンダがリリースされていますが、完全な井上氏作品ではないとの由です。このビオゴジ、原型が作られたのは1990年だそうですから、井上氏はかれこれ10年近く新作をリリースしておられないということになります。


キンゴジジャイアントスイング/パラダイス

    

 井上氏は、いくつかジオラマ形式の作品もリリースしておられますが、これはそれらの中でも大胆な構図が魅力的な作品です。コングがゴジラの尻尾を持っている部分はずいぶん注意して作ったつもりだったのですが、年月が経つにつれてだんだんとゴジラが地面に近づくようになりました。一応支えを入れてはいますが…せっかくの井上氏の作品ですから、機会を見つけて変形しないように修正を施したいと思っています。台座まで含めて全部筆塗りで、ずいぶん苦労した記憶があります。


四つ足バラゴン/ウェーブ

  

 別項でもふれた四つ足バラゴンです。今回このページを記述するにあたって、冒頭で示した宇宙船の別冊を久しぶりに引っ張り出してきたのですが、その本の広告ページでゼネラルプロダクツが井上氏の立ちバラゴンを販売していたことを知りました。FRP製で組み立てキット2万円、完成品3万円とあります。写真を見る限り実にバラゴンっぽいバラゴンなんですが…そちらも再販されたりとかしませんかねえ。(追記:その後このページをご覧いただいた方からメールをいただきました。私は知らなかったのですが、この立ちバラゴンはパラダイスからソフビで発売されているのだそうです。それを知って早速東京ホビットの通販サイトから購入いたしました。イノウエアーツらしい巨大キットで、作るのにはちょっと気力を蓄える必要がありそうです。完成したらまたこのページにアップしようかと思っています…いつになるかは疑問ですが…)


モスゴジ/バンダイ・リアルホビーシリーズ

  

 え〜、バンダイのリアルホビーシリーズについては、やっぱりちょっと語りたくなってしまうところもあります。(納屋の奥にはリアルホビーの残骸がいくつか眠っています) とはいえ、まぁそれはまたの機会ということにいたしまして…リアルホビーシリーズはウルトラマン、バルタン星人などがまず発売されましたが、ゴジラの発売はずいぶん遅くなってからだったように思います。まさに満を持してという感じでありまして、数あるゴジラのなかから、最もゴジラらしいゴジラということでモスゴジが選ばれたように記憶しています。(私にとって、作品ごとにゴジラの顔が違うというのを意識したきっかけがこのリアルホビーだったようにも思います) このリアルホビーシリーズ「モスゴジ」の原型を井上氏が担当していらっしゃいます。今、改めて見ると多少太めで、頭が大きいかなあという気もします。(素材が硬いため、尻尾に生気がない感じです。とはいえ、もともとこのシリーズは可動が売りであったはずでして、本来は尻尾にもう少し表情が付けられたのだと思います。実際、井上氏の原型に着色した写真を見ると、全体的にもう少し柔らかい印象があります) まぁ、このあたりは内部に電飾を組み込んだりするなどの制約があったためかもしれません。

 とはいえ、当時このモスゴジは実に衝撃的なものでありました。このモスゴジと並行して井上氏の原型によるメカゴジラもリアルホビーの企画としてあがっていたようですが(上述の宇宙船別冊「3DSFワールド2」には、モスゴジとメカゴジラが並んでいる写真があります)、結局発売されずじまいだったようです。(パオパオワンダーランドの原型師列伝によれば、このメカゴジラはイノウエアーツブランドで発売されたようです)

 なお、パオパオワンダーランドの原型師列伝では、リアルホビーの「ガメラ」も井上氏の原型との記述があります(ガメラも納屋の奥に眠っていますので、いつかこのページに追加いたしましょう)


モスゴジ/バンダイ/12000円

   

 バンダイからリアルホビーシリーズや、新しいソフビ怪獣シリーズが発売されたりしていた1990年頃、全高50センチ、全長1メートルの巨大ソフビゴジラが発売されました。価格は12000円。その原型も井上氏によるものでした。雰囲気としては、初期の井上氏のものに似ているなあとかねがね思っておりましたが、「原型師列伝」で、井上氏の82年の「バンザイモスゴジ」が原型だと知って納得しました。

 この作品、購入してから持ち帰るまでにずいぶん苦労した記憶があります。



 というわけで、ひととおり私の所有している井上氏原型作品をご紹介いたしました。

 井上氏の作品はゴジラばかりではありません(サンダ対ガイラとか、海底軍艦とか私も入手したいと思っている作品はいくつかあります)。しかし、やっぱり私にとっては井上氏のゴジラというのが一つの定番になってしまっているような気がします。

 パオパオワンダーランドの記述や、井上氏のアトリエを訪ねた記録などを読みますと、井上氏の製作姿勢と商業的な契約のギャップなどから、井上氏をとりまく状況は必ずしも順風満帆とは言えないように感じます。

 とはいえ、一ファンとしては、やはり井上氏の新作モスゴジや新作キンゴジなどが見たいというのが正直な気持ちでありまして…是非とも「正にイノウエアーツ」という作品を再びリリースしていただきたいと願ってやまない次第です。(できればソフビで……)



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