第41回日本SF大会 ゆ〜こん 極私的レポート


 2001年に行われた第40回日本SF大会SF2001のレポートページはこちらです。

 2002年7月13〜14日に島根県玉湯町玉造温泉で行われた第41回日本SF大会「ゆーこん」に参加してきました。はじめて山陰で行われる日本SF大会でありましたが、大いに盛り上がりました。
 このページでは私が参加した範囲で「ゆーこん」の内容を記録しておきたいと思います

受付 7/13 10:30-

 玉造温泉の入り口のモニュメント
 会場のひとつ、ホテル玉泉の勇姿
 ホテル玉泉の素晴らしい日本庭園
 14:30頃の受付の様子

 この日は早めに会場に着いたのですが、スタッフの方々は既に稼働状態でありました。受付も公式には14:00からとなっていたのですが、参加者の便宜をはかってか午前中から適宜受付が行われていました。おかげで、特定の時間に参加者が殺到するといったこともなく(もちろん、送迎バスなどが到着したときは混雑していたようですが)、スムーズに受付をすませることができました。
 会場となった玉造温泉は、山陰の名湯のひとつであり、出雲国風土記にも記載されている由緒正しい温泉であります。いかにも温泉街といった雰囲気で情緒あふれる場所でした。今回の会場はホテル玉泉さんと松の湯さんの2箇所。私が宿泊したホテル玉泉は、実に豪華なホテルでありまして、普段ならとても値段が高くて泊まれないようなところでした。ロビーやお庭も立派なものでしたし、何より大浴場は広くて豪華でした。また、ホテルスタッフの方々も親切かつ丁寧で、突発的な事態にも的確に対応してくださったりしてとても良い印象を受けました。


水の星“地球”の奇跡−深海への挑戦− 7/13 13:00-14:30

左より作家の都築氏、広島大学長沼氏、海洋科学技術センターの西村氏、後ろの画面はスクリーンショットの合成です。

 さて、早々と受付をすませてしまった後は、開会式までの数時間がぽっかり空いてしまいました。昼食に行こうにも、激しい雨が断続的に降ってホテルに足止めという感じです。仕方なく、そのあたりのソファに腰掛けて別の参加者の方と話したりしていたのですが、玉泉から400メートルほど離れたところにある公共浴場 ゆーゆで13:00から「深海への挑戦」と奥出雲に古来より伝わるたたら製鉄を紹介する「製鉄のふるさと出雲」という二つの講演があるということで、雨のやみ間を見てゆーゆの方へ行ってみました。
 たたら製鉄も興味深かったのですが、私は別の機会にたたらの状況などを見聞することがありましたので、「深海への挑戦」の方を聴講することにいたしました。
 この企画は、海洋科学技術センターの西村氏がメイン進行で、作家の都築由浩氏、広島大学の長沼氏をコメンテイターとして、海洋科学技術センターが現在行っている探査の内容等を紹介するというものでした。
 深海探査艇として使われている有人探査艇「しんかい6000」、無人探査機「かいこう」、そして最先端の無人自律探査艇「うらしま」、また探査艇の母船や研究船として開発された「みらい」などの運用状況や設備が豊富なビデオ映像で紹介されました。(ここで聴いた面白いトピックをひとつ…船上でのポインティングデバイスはマウスではなく、トラックボールが使われます。これは、マウスだと海上での揺れに反応してしまうからだとか…)
 西村氏による海洋科学技術センターの活動に関するお話しでは、日本海沖に沈んで日本沿岸に重大な重油流出被害をもたらしたロシア船籍の貨物船ナホトカの探査(このとき撮影された映像が、ロシア側の『漁船に当て逃げされた結果沈没した』という主張に対する反論として用いられたのだとか。冬の日本海底はセ氏1度前後で、重油がゲル状(?)になってロープや手すりなどに樹木状に張り付いている映像が印象的でした)や、第二次世界大戦中に発生した疎開船対馬丸の沈没船調査といったビデオ映像も流されました。なお、こういった事前の計画に組み込まれていない突発的なミッション(ナホトカの沈没とか沖縄で沈んだ対馬丸の探査とか、H2のエンジン探査とか…)は総理大臣命令で行われるとのこと。そういったミッションが入ったときは探査機の予約をとっていらした研究者の方に頭を下げてスケジュール調整するのだとか。ただし、やはり社会的に話題性(?)のあるミッションが入るとパブリシティの面からはプラスになるとおっしゃっていました。私の場合(海洋科学技術センターとは全然関係ないですが)どちらかというと影響を被る立場ではありますが、税金を使って研究を行っている以上、パブリシティの重要性というのも身につまされるわけでして…何とも複雑な気分でお話しを拝聴いたしました。
 また、サンゴが二酸化炭素を吸収しているのかそれとも排出しているのかを研究する活動や、深海に生息する多様な生物などのビデオも紹介され非常に興味深い講演でした。

 講演が終わって会場を出ると、外は激しい雨になっていました。幸い私は傘を持っていたので、なんとか玉泉まで帰り着くことができましたが、その間にもかなり濡れてしまいました。(今回は、企画の会場が玉泉と松の湯の二箇所に分かれていたため、この雨には多くの方が悩まされたようです。閉会式での暗黒星雲賞では自由部門に「雨」が選出されてしまいました…)


開会式・星雲賞受賞式 7/13 15:00〜16:30

 星雲賞自由部門を受賞したH2−Aロケットに代わって賞状を受け取る野田篤司氏
 星雲賞海外短編部門を受賞したグレッグイーガン「しあわせの理由」の表彰で、翻訳者の山岸真氏のメールを代読する大森望氏
 星雲賞日本長編部門を「ふわふわの泉」で受賞した野尻抱介氏の受賞スピーチ

 開会式は実行委員長の挨拶、玉泉の支配人の方、松の湯の女将さんの挨拶などで進められました。最も受けていたのはなんといっても松の湯の女将さんです。「SFとは縁もゆかりもない自分がSF大会で何を話そうかと娘と相談したら、『女将がSF大会でスピーチすることがSFだ』と言われた」と話され、会場は大喝采。「従業員には『SF大会が開かれるなんていうことは人生のなかでも滅多にないのだから、徹夜して全てを見届けるように』と言ってある」などとも言われ、大会参加者のハートをがっちりつかんでしまわれました。(何と、暗黒星雲賞の企画部門・松の湯篇では他の企画を押しのけてこの女将さんが受賞されました)

 例年、星雲賞の発表は閉会式に行われるのが通例となっているようですが、今年は開会式の場で星雲賞の発表が行われました。
 今年、新たに設けられた自由部門では、「H2−Aロケット」が受賞。賞状はNASDAにお勤めで、SF界でも積極的に宇宙技術の紹介などをされている野田篤司氏が受け取られました。受賞スピーチでは、受賞について社の方に報告したら『あやしい賞ではないか』などと言われたとか、『宴会の余興なのではないか?』と問われて『宴会の余興です』と答えたとか、『この受賞を本人も喜んでいるが、第一段は小笠原の海底に、第2段は地球軌道上に居るので会場に来られなかった』などとユーモアあふれる語り口で会場を大いに沸かせていらっしゃいました。(このスピーチが受けに受けて、暗黒星雲賞を受賞されました。星雲賞と暗黒星雲賞のダブル受賞であります)

 ノンフィクション部門は増山久明氏による「NHK少年ドラマシリーズのすべて」が受賞。ご本人の受賞スピーチでは、この賞はご自分だけでなく、当時の製作スタッフに贈られるべきもので、自分が代表して受け取るといったことを述べていらっしゃいました。

 アート部門は寺田克也氏、氏はお仕事が忙しく会場にはいらっしゃっていませんでしたが、CGの自画像とともに、音声メッセージが流されました。

 メディア部門は「仮面ライダークウガ」でした。「ギャラクシー・クエスト」や「クレヨンしんちゃん」を押さえての受賞です。プロデューサの高寺氏がビデオでメッセージを寄せられました。そのなかで、クウガの前期はウルトラマンのようなイメージで、活劇が中心。後半はウルトラセブンのようなイメージでテーマ押しとおっしゃったのが印象的でした。

 コミック部門は「プラネテス」。作者の幸村誠氏ご自身が登壇され、表彰状をお受け取りになりました。なお、星雲賞は原則として完結した作品に送られるものですが、「プラネテス」は基本的に1話完結型の作品であることと、昨年刊行された2巻で一応の区切りがついたように判断したので候補作としてあげたという説明がなされました。

 さて、小説部門ですが、まず海外短編部門はテッド・チャンの「あなたの人生の物語」が呼ばれました。個人的な話しで恐縮ですが、私が星雲賞の投票を行うにあたって一番思い入れがあったのが海外短編部門でした。「あなたの人生の物語」はSFマガジンに掲載されたときに一読して、その構成やストーリーに感銘を受けました。昨年読んだSFマガジン掲載短編の中ではベストの作品だったと思います。しかし、それ以上に私にとって思い入れの深い作品がありました。20世紀SFの第6巻に掲載されたグレッグ・イーガンの「しあわせの理由」です。この作品は、アイディアもさることながらラストで主人公の行動を通して伝えられる作者のメッセージが実に力強く共感を感じるものでした。私にとって、オールタイムベストといっていい作品であります。それだけに、星雲賞は「しあわせの理由」にとって欲しかったのですが…結果を聞いたときは、やはりSFマガジン掲載作品のネームバリューにはかなわないかと思ったりしたのであります。
 ところが、その直後に「海外短編部門はもう一作あります」とアナウンスされまして、これはもしやと期待したのですが、その期待に違わず、グレッグ・イーガンの「しあわせの理由」が読み上げられました。
 「しあわせの理由」の訳者である山岸真氏はこの日参加していらっしゃらず、代わりにイーガン普及協会西葛西支部代表を自称される翻訳者の大森望氏が山岸氏のメールを代読されました。大森氏は山岸氏の編による日本オリジナルのイーガン短編集の第二弾が準備中であること、また現在山岸氏がイーガンの長編を訳出中であることなどを述べられました。なお、イーガンは昨年も「祈りの海」で星雲賞を受賞しています。山岸氏のメールによれば過去3年連続して星雲賞を受賞したのはレイ・ブラッドベリのみとのこと。(資料によれば71年の「詩」、72年の「青い壜」、73年の「黒い観覧車」です) イーガンが来年「ルミナス(90年代SF傑作選所収)」で取ればその記録に並ぶのであります。

 海外長編部門はパット・マーフィの「ノービットの冒険」が受賞しました。候補作にはカードの「エンダーの子どもたち」やスティーブンスンの「ダイヤモンド・エイジ」など名作の続編や大作もあるなかで、比較的小品といったイメージのあった(失礼)「ノービット」が受賞したのは私にとって意外でもあり、また納得できるものでもありました。と、申しますのも、私自身、海外長編では突出した作品があるとは感じていませんでした。シリーズの続編的作品はどれもいまひとつといった感想を持ちましたし(ブリンの「変革の時」は面白かったのですが3部作の第1部とあって全然完結してないですし…)、「フラッシュ・フォワード」や「ダイヤモンド・エイジ」などは確かに面白かったのですが、傑作とまでは言い難いという印象を持っていました。(私は、悩んだ末に「ダイヤモンド・エイジ」に投票したのですが) それを考えると、確かに「ノービットの冒険」は、お話しとしてよくまとまっていて楽しい作品であったと思います。パット・マーフィ氏の受賞コメントが読み上げられましたが、作品の深い内容を説明する興味深いものでした。

 日本短編部門は田中桂文氏の「銀河帝国の弘法も筆の誤り」が受賞。ご本人がスピーチされました。氏の作風と違わず(?)ユニークなスピーチでした。

 日本長編部門は野尻抱介氏の「ふわふわの泉」でした。「AΩ」、「かめくん」、「永久機関装置」、「サムライレンズマン」…等々の居並ぶ強豪を押しのけての受賞であります。実は、私も「ふわふわの泉」に投票した一人でありまして…確かに昨年の日本長編SFは収穫揃いで、候補作全てが面白く、印象的なものでした。しかし、私としては科学者や技術者のオプティミズムを真っ正面から謳いあげた「ふわふわの泉」こそ星雲賞にふさわしいと思いました。同作はまだ私が若かった頃SFというものに感じた未来を前向きに見つめていく姿勢を思い起こさせてくれるものでした。確かに、歳を重ねてまいりますと、世の中は前向きなことばかりが正しいわけではないという悟り…というか挫折感も抱くものでありますが、それだからこそ、こういった作品を読むのは新鮮な感動がありました。個人的には是非若い方に読んでいただきたい作品です。
 ご本人による受賞スピーチでは、ご自分のことを「星雲賞を貰いたい作家」と標榜していらっしゃいました。(その真意は、やはりSFファン、SF読者がSF小説にもっと目を向けて欲しいということなのではないか、と私は解釈いたしました)
 余談ながら、私は昨年のSF大会で行われたサイン会で「ふわふわの泉」に野尻氏のご署名をいただきました。これはちょっと自慢だったりします。また、今年は野尻氏が最近刊行された「太陽の簒奪者」にもご署名をいただくことができました。ヤングアダルト系の作品が多かった野尻氏ですが、「太陽の簒奪者」は実にハードな宇宙SFであり、SFマガジン掲載時から注目していましたが(短編として2000年の星雲賞も受賞していらっしゃいます)、長編という形で刊行されたことは、個人的に今年上半期の大きな収穫だと思っています。来年の星雲賞候補最右翼だと思ったりしているのですが…

 なお、星雲賞の投票資格を持つのは、日本SF大会に予備登録または本登録をした方なのですが、今年はSF大会参加者約700名のうち、1/4程が実際に投票されたのだそうです。選択肢のなかには「棄権」もありますので、各部門の候補作全部に目を通していらっしゃらない方は「棄権」を選ばれる方も多いとのとです。例えば、今年は海外短編部門などが棄権率が大きかったとか。ただ、そういった部門で投票される方は、それぞれの作品に対する思い入れも強いようで、票が分散する傾向にあるのだそうです。今年も海外短編部門は同票で1位が2作品あり、また次点もわずか1票差であったとか。
 ちなみに、毎回ユニークなものが贈呈される副賞ですが、今年は温泉大会にふさわしい浴衣でありました。実行委員会の方は、受賞者の方に「是非会期中はこの浴衣を着てください」とおっしゃっていました。

 前述のように、今年は例年と違って開会式に星雲賞授賞式が行われたのですが私としては、SF大会開催期間中の話題提供にもなって良かったのではないかと思っています。野尻さんにご署名をいただく際にもご受賞の御祝いを申し上げることができましたし。

 星雲賞に続いてはファンジン大賞の発表と授賞式、また柴野拓美賞の発表と授賞式が行われました。席上、柴野氏がご自分がお歳を召されてご自分のお名前を冠した賞を出すのは気が引けるようになってきたことなどを述べられた上で、今後について何か意見があれば寄せて欲しい旨のことをおっしゃいました。私としては、何といっても「SF大会の顔」として、柴野さんには今後ともご活躍いただきたいというのが正直なところであります。


小休止〜夕食 7/13 17:00-20:30

 会場内を闊歩するイワシマンとナカイ星人。お二方とも、今回はスタッフとしても参加されました。ナカイ星人の腰にはスタッフの証である前掛けが巻いてあります。
 ホテルのラウンジ前でポーズをとるイワシマン。この豪華な温泉ホテルをイワシマンが歩くのは空前絶後といってよい出来事でありましょう…
 これがホテル玉泉の夕食。暗黒星雲賞企画部門受賞にふさわしい内容とボリュームでありました。

 開会式終了後、少し時間がありましたのでホテルの部屋に行って同室の方とビールなぞ飲みながらSF談義に花を咲かせました。遠方からいらっしゃった初対面の方と親しくSF話ができるというのは合宿型大会の魅力の一つだと実感いたしました。
 また、会場内はテルミンの実演が行われたり、早速Hi★JACの方のコスプレがあったりして華を添えていました。

 さて、今大会で実行委員会が最も力を入れていたという噂もある夕食ですが…これがまたトンデモナイものでありました。
 私が宿泊したホテル玉泉の夕食は上の写真の通り。だいたい、固形燃料を燃やす料理が2点もある時点で反則といえましょう。牛肉のステーキ、牛肉のしゃぶしゃぶ、ゆでガニ、お造り、エビの揚げ物、焼き魚、茶碗蒸し、煮物、天麩羅、蕎麦などなどが膳に並びます。しかも、ビールまたはジュースが1本漏れなくサービス。更に、この後ヒラメのお造り(ちゃんとエンガワもついてました)やご飯にお吸い物、仕上げはデザートにメロンとミニケーキと、もう至れり尽くせりのもてなしでありました。ステーキやしゃぶしゃぶは仲居さんが給仕してくださったりしました。
 閉会式での暗黒星雲賞企画部門・玉泉篇ではこの「夕食」が受賞いたしましたが、それも宜なるかなという内容でありました。

 夕食後は、企画の開始まで少し時間がありましたので玉泉の大浴場で温泉を堪能いたしました。ここのお風呂はさすがに温泉宿だけありまして、洗い場や湯船もとても広く、また露天風呂や打たせ湯もあるなど、もうすっかり湯治場気分でありました。


第11回トンデモ本大賞 7/13 21:00-23:30

 左より開田裕治氏、藤倉珊氏、唐沢俊一氏、山本弘氏。スクリーンに映っているのは今回のトンデモ本大賞を受賞した天野仁著「忍者のラビリンス」(画像はハメコミ合成です)

 夕食を喫したホテル玉泉から、もう一つの会場松の湯さんまでは距離にして約300メートルほど、歩いて数分といったところです。幸い雨もやんだようで、ふらふらと歩いてでかけたのですが、この日は非常に蒸し暑く外を歩いているだけで汗がふき出てくるようでした。
 今回の企画は午後9時からと少々遅いスタートだったのですが、まずは人気企画の一つである「トンデモ本大賞」に参加しました。
 コメンテイターは開田裕治氏、藤倉珊氏、唐沢俊一氏、山本弘氏の4名。実は、昨年の「トンデモ本大賞」の席上で鶴岡法斎氏が、「いま、数十万円する巨乳ダッチワイフを買うかどうかで迷っている。来年のSF大会に連れて行って一緒に温泉に入れば受けそうなんで、買ってもいいかも」といった内容のことを話していらしたので、さてどうなったのだろうと半ば期待していたのですが、企画の初っぱなに唐沢氏が「今日は鶴岡氏は来てません」と説明されました。ただ、来年のSF大会も栃木の塩原温泉で行われますので、もしかしたらそのときにダッチワイフと温泉が実現するかもとおっしゃっていましたが。
 さて、今回のエントリーは5作品。まずは大沼孝次著「ストーンオーシャン超常心理分析書」。これはジョジョの奇妙な冒険第6部の解説書なんですが、どうやら著者の方はDIOの存在もご存じないくらい第1部〜第5部を読んでおられないようで、なかなか珍妙な解説が続出でありました。ちなみに、この著者の方、ベルセルクやハンニバルの解説本も執筆されているそうです。後の参加者による投票では102票中18票を獲得していました。
 次に、P.グレゴリー卿著「邪悪の石/本当は恐ろしいハリーポッター」。「ハリー・ポッター」と「本当は恐ろしい……」の便乗本といった感じですが、内容は実に邪悪なものでありまして、ハリー・ポッターはインモラルなオナニストで復讐マニア、ダンブルドア校長は少年愛にふける変態…といった内容のものだそうです。特に、後半は「これが本当のハリー・ポッターの姿」という感じで小説が掲載されているのですが、同人誌でもやらないのではないかというくらい邪悪きわまりない内容でありました。なんでも、欧米では特にファンダメンタリストの方を中心に、魔法や魔法使いをフィーチャーしたハリー・ポッターを敵視する勢力があるようで、本書もそういった流れの一つであろうとコメントされていました。なお、本当にP.グレゴリー卿なる著者が存在するのか(訳者のあとがきには、「原稿をコピーすることが許されなかった」「表紙の色を緑にするように指定されたのだが、卿と会うことになったとき緑色の犬が現れた」などといったにわかに信じがたい記述がされているとのことです)、もしかしたら誰かがWebサイト上に掲載されているアンチ・ハリー・ポッターの文章を編集したのではないかといった疑義も呈されていました。パロディとしては面白くなくもないのですが、何しろ悪意に充ち満ちたものであるために、さすがに敬遠されてか9票の獲得にとどまりました。
 3冊目は江本勝著「水は答えを知っている」。昨年もノミネートされた「水は語る」の続編であります。今回は比較的メジャーな出版社であるサンマーク出版から刊行されたもの。著者の方の主張はますますエスカレートして、ついには「水は地球外起源の物質である」などと結論づけていらっしゃいます。そのぶっ飛びぶりに感動して、私は本書に1票を投じたのですが、得票総数は13でありました。
 4冊目は畑山博「地上星座学への招待」。芥川賞受賞作家でもある著者が、夜空に浮かぶ星座と地上にある湖や都市を結んでできる図形との相似から「地上にも星座が存在する」と論じた本。芥川賞作家という肩書き(しかも本作が著者の遺作)と、出版社がNHK出版であることなどから、なんとも形容しがたい作品でありました。18票を獲得。この本に関連してNHKの話題なども出たのですが、さすがにそれはWebページで記録しておくのははばかれます。
 最後は天野仁「忍者のラビリンス」。理論物理学者である著者が、高田馬場のたこ焼き屋さんで女性の忍者(くのいち)と出会ったのをきっかけに忍者についてまとめた本。くだんの女性はオリオンからやってきた忍者で、その女性忍者は著者をプレアデス人だと看破するのであります。ちゃんと図版によってプレアデスと高田馬場がワームホールでつながっている様が説明されているあたりが読者をうならせます。忍者の系譜を古代エジプトやクレタ文明、はては安倍晴明までたどる著者の超絶ぶりが参加者を絶句させて、見事40票を獲得して本年度のトンデモ本大賞に輝きました。

 開票結果を待つまでの間、コメンテイターの方々がいろいろと雑談されたのですが、そのなかでひとつ印象に残るお話しがありました。日本の場合昔の映画フィルムなどを持っていると税制上財産とみなされてしまうので、映画会社では古い映画フィルムを保管していないのだそうです。最近の映画でも、5年もたてば音源が破棄されてしまったりするのだとか。「日本の制度は映画を作ることができないようになっているのではないか」といった指摘がされていました。


ディーラーズルーム、日本SF特撮映画特殊講義第2講 7/13 23:00- 7/14 01:00

 ディーラーズルームのHi★JACブース。今回もビデオ1本300円、5本セットで1000円という凶悪な値付けで売りまくり、3時間ほどで完売した由であります。
 日本SF特撮映画特殊講義の模様。日本特撮シリーズに登場した地底人・海底人の系譜をまとめた面白い企画でした。

 再びホテル玉泉に移動してディーラーズルームを覗いてみることにしました。今回も昨年に続いてHi★JACさんが自主制作映画のビデオを出店しておられます。昨年は1本100円という破格の値付けで瞬く間に売り切れたのですが、今年も1本300円、5本セットで1000円という採算度外視というか、ほとんど原価そのままというお値段で販売されていました。日付が変わる頃には100本用意したビデオテープが完売してしまったとのことです。

 私の方は、日本SF特撮映画特殊講義という企画に参加していました。こちらは、過去から現在に至る特撮作品のなかからある一定のテーマにそった作品をとりあげて解説するというもので、今回は地底人・海底人がテーマでした。講師お一人の熱演でありまして、なかなか面白く拝聴いたしました。平成の海底人として「うたう!大竜宮城」が出たあたりはちょっと受けました。


地ビールの部屋 7/14 01:00-03:00

 地ビールの部屋に並んだビールの数々

 3年ほど前に参加した合宿型SF大会「やねこん」で行われた企画で、参加者が地ビールを持ち寄って批評しようというものがありました。このとき一緒に行ったHi★JACの行動隊長氏らはこの企画に参加されてずいぶん楽しまれたようで、私も参加すればよかったと思っておりました。今回は「やねこん」以来の合宿型SF大会ということで、ついに念願の「地ビールの部屋」参加がかなったのでありました。私はこのために近所のスーパーから鳥取県境港市の「夢みなとビール」を、また会場に向かう途中の松江市で立ち寄った地ビール館で「縁結ビール」を買い込みました。
 ところが、今回の会場では冷蔵庫が使用できなくて、集められたビールがのきなみ冷えていないという最悪の状態でありました。
 それでも企画は順当に進みまして、美味しい地ビール、あまり美味しくない地ビールといろいろ楽しませていただきました。中には、本当に自家製のビール(自ビール)を持っていらした方もあって、ご相伴にあずかることができました。
 ちなみに、今回最も支持を得たビールはオーストラリア産のものでありまして、ある薬草のエキスが入っているというふれこみのビールでした。(その薬草のエキスが入っているからといって、決して非合法のものではなく、ちゃんと正規に輸入されて国内の酒屋さんで販売されているものだそうです。念のため)


おやすみなさい… 7/14 03:30-07:00

 地ビールの部屋でアルコールをしこたま摂取してしまった私は、まだまだそこかしこで企画や宴会が続いているというのに部屋に戻って布団の魔の手に身をゆだねてしまいました。少し仮眠してもう一度くりだそうと思っていたのですが、結局朝まで寝入ってしまいました。


驚異の朝食 7/14 07:00-08:30

 これが朝食のメニュー。夕食と同じく固形燃料を使う料理が二つもありました。

 というわけで、目が覚めたあと朝風呂をつかい(男湯と女湯が昨日と入れ替わっていて、昨日は岩風呂、今日は檜風呂と楽しめました)、同室の方と一緒に朝食に向かいました。
 この朝食がまた豪華なものでありまして…シジミの味噌汁にカニ雑炊。イカの造り、煮物、冷や奴、サラダ、オレンジ、香の物といったメニュー。膳の前に座る前までは「旅館の朝食メニューなんて…」と思っていたのですが、その予想は見事に覆されてしまいました。特筆すべきはシジミの味噌汁でありまして、地元は宍道湖で採れたシジミをつかった実に美味しいものでありました。近所に住んでいて、シジミの味噌汁などもしばしば飲んでいる私からしても絶句するほどの美味しさでした。
 遅くまで起きていらして、朝を寝過ごしてしまった方の中にはこの朝食を食べられなかった方もいらっしゃるようですが、その方は今回のSF大会の醍醐味の一つを逃してしまったと断言できます。私としては夕食以上に充実した内容の朝食でありました。


閉会式 7/14 10:00-11:30

 閉会式の総合司会を務められた作家の飛浩隆氏
 暗黒星雲賞担当氏すいません。お名前を失念いたしました…と副賞を提供された地元在住の作家石飛卓美氏
 星雲賞と暗黒星雲賞を同時受賞された野田篤司氏。両手で抱えておられるのが副賞の椎茸のホダ木です。
 野田昌宏大元帥によるプレゼント贈呈。持っていらっしゃるのがNASAのロゴ入りベビー服です
 名誉実行委員長であり、島根県立大学教授も務めていらっしゃる豊田有恒氏による挨拶

 というわけで、いよいよ閉会式。この日は昨日の雨模様とはうってかわった日差しの強い暑い日となりました。
 閉会式の総合司会は島根県在住の作家、飛浩隆氏が務められました。軽妙な話術は氏の作風を彷彿とさせるものだったように思います。余談ながら、飛氏は島根大学SF研のご出身で、私が高校生ぐらいだった時代にSFマガジンでデビューされた方です。当時は近くに住む方がSFマガジンに小説を執筆していらっしゃると知って、妙に親近感を憶えた記憶があります。何作かSFマガジンに発表されていらっしゃいますが、寡作という印象はありました。しかし、この10月には早川Jコレクションのシリーズとして新作を刊行予定とのことです。

 さて、閉会式の方は、まずセンス・オブ・ジェンダー賞(今年から創設された、ジェンダーに関する問題提起をはらんだ作品に送られる賞だとのこと)の発表と受賞式が行われました。
 続いては暗黒星雲賞の発表と授賞式。今年は暗黒星雲賞の副賞として、島根県在住の作家であり農園の経営もされている石飛卓美氏から椎茸のホダ木(椎茸の菌を植え付けた木)が提供されました。これがまた大きなものでして…受賞された方はお持ち帰りになるだけでも大変だったのではないでしょうか。
 このページで既に触れていますが、自由部門では「雨」、ゲスト部門では星雲賞の受賞スピーチが印象的だった野田篤司氏、企画部門では玉泉篇が「夕食」、松の湯篇が「女将さん」(次点は夕食)、いずれも玉泉のスタッフの方と女将さんに賞状とホダ木が手渡され受賞スピーチでは大いに会場が沸きました。コスチューム部門は時間報のマスコットキャラクターのぬいぐるみでした。コスチューム部門では、Yonagoれいるろおど館のマスコットキャラクター「やくも子ちゃん」が次点の一人として椎茸のホダ木を授与されました。
 なお、暗黒星雲賞は権威に堕することを嫌って「幸運部門」が設けられているそうです。投票者のなかから抽選で選ばれた方お一人に無条件で暗黒星雲賞を授与されるのだとか。今回選ばれた方は「幸運」にふさわしく、とりわけ大きいホダ木をプレゼントされていました…持って帰るの大変だったでしょう…

 野田昌宏宇宙軍大元帥からはNASAのロゴ入りベビー服やTシャツなどのプレゼントが提供され、会場全体を巻き込んだプレゼント大会になったりしました。

 来年に栃木で行われる第42回SF大会、また再来年に岐阜で行われる第43回SF大会、更には2007年の誘致を目標に活動しておられるワールドコンの紹介などがあった後、いよいよ最終盤となって、特別実行委員長であり島根県立大学の教授も務めていらっしゃる豊田有恒氏が挨拶されました。
 そして最後に、大会実行委員長が閉会を宣言されて、第41回日本SF大会は全ての幕を閉じたのであります。

 閉会を宣言する大会実行委員長

 今回は初日が雨にたたられたりもしましたが、合宿型大会の面白さを満喫できました。大会の実現と円滑な実施にご尽力されたスタッフの皆様、また会場となった玉泉と松の湯の皆様に、一参加者として御礼を申し上げます。また、私と同室になった方々にも楽しいひとときを過ごさせていただいたことに感謝いたします。

 来年のSF大会は栃木という遠隔地の上、2泊3日とあってはさすがに参加はできないとは思いますが、再来年の岐阜にはまた参加したいと思っているところです。

 2002.07.16記

 


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