2001年8月18〜19日に幕張メッセを会場として行われた第40回日本SF大会に参加してきました。詳細な内容等はオフィシャルページをはじめとして、参加者やゲストの方々のWebページにおいおい掲載されることでしょうから、私としては、極々個人的な感想や資料などをあげておきたいと思います。
幕張到着は8:15頃。当日は、若い人たちが参加するロックフェスティバルも同じ会場内で行われるとのことで、電車内はロッカーな人たちが目立っていました。私と同行のHi★JAC行動隊長O氏、ガイナマンの人H氏の3名は、ロッカーな人たちの流れとは途中で別れてSF大会の受付へ向かいます。開場45分前ぐらいでは意外に並んでいる人は少なくて、ちょっと驚きました。
開場後、SF広場の一角で行われている自主制作映画の衣裳展示に「ガイナマン」を展示するためのお手伝い。用意されたマネキンが意外に華奢なもので、立位を保つのに苦労しました。その後、Hi★JACさんのディーラーズルームのセッティング。今回はディーラーズルームの出展料が無料という太っ腹企画だったため、Hi★JACさんも1コマのスペースをとったわけです。なお、自主制作映画のビデオを1本100円という廉価で販売したところ、初日の午前中には早くも用意した4作22本が売り切れてしまいました。販売方式もお金いれを置いておくだけの、「農家の朝市」方式だったのですが、売れた本数と回収した金額は50円しか違わなかったとか。
なお、衣裳展示全般に関しては、自主制作映画者としてなかなか興味深かったので、項を別にして詳細にレポートすることにします。
・第40回日本SF大会の自主制作映画衣裳展示企画レポート
今回のSF大会はGAINAXが全面協力、かのDAICON III、DAICON
IVを更に凌駕するようなオープニング映像が期待されていたのですが、「間に合いませんでした」とのこと。近日中にはWeb等で配信されるとのことでした。続いて名誉実行委員長小松左京氏の挨拶。
オープニングに続く最初の企画は、小松左京、高千穂遙、鹿野 司3氏による対談、ライブ「教養」でした。徳間書店から発刊されている同名の書籍のライブ版だとか。とにかく印象に残ったのは、小松先生の暴走ぶりでした。ちょっとしたきっかけから、話題がとにかくいろいろな方向に発散していくのですが、それがまたベラボウに面白いのです。高千穂氏と鹿野氏が、なんとかして議論を収束させようと試みるのを見ているとちょっとハラハラしてしまいました。
海外SFを原書でもっともよく読んでいらっしゃるであろう方々、山岸真、堺三保、東芽子、加藤逸人の4氏による、今注目の海外SF作品のお話し。
この4人の方々の掛け合いを楽しくきくことができました。このセッションのなかで紹介された作品としては、アレステア・レナルズのRevelation
Space、ジェフリー・ランディスのMars
Crossing、ベン・ボーヴァのMoonriseなどが印象に残りました。帰宅後、早速Amazon.comに注文を出してしまいました。
また、このセッションのなかで出た話題として興味深かったのは、アメリカSFの80〜90年代の傾向として、(コアなSFファン以外の)普通の人たちに売るために、ロマンスや家族の葛藤といった通俗的な人間ドラマを書き込むことが多いということ。しかし、その人間ドラマといった部分がいかにも強調されているアメリカSFよりも、むしろ英国やカナダ・オーストラリアといった国から出てくる作品の方が、人間ドラマの部分をさりげなく書き込んでいるようであるといった指摘でした。
これは、私としてもなんとなくうなずけるお話しで、後述しますが、今年度の星雲賞海外長編部門に投票する際に、「フレームシフト」や「ダーウィンの使者」といった作品を選ぶのに躊躇したのは、この通俗的な部分に違和感を感じたからだったように思います。(その部分が面白いならいいんですが、なんだか本筋から浮いてる感じがしたのです)
山岸真、大森望、嶋田洋一各氏の翻訳家の皆さんによるSF翻訳全般に関するお話し。司会は鈴木力氏でした。
原文に特殊な趣向があるような場合に、それをどのように日本語の文として置き換えるかといった話題など面白くききました。
最近Web上での議論が喧しい瀬名秀明氏と野尻抱介氏、野田令子氏によるディスカッション。詳しい内容に関しては瀬名さんが何らかの形でまとめられるとのことですから、後日改めて検証する機会があるかと思います。
私が興味深かったのは、最近SF作品を精力的に出版しているK事務所の文庫担当編集の方の発言でした。同社が発行している作品の内容に関して、ハードSFファンと名乗る人たちから「あの作品のこの部分は科学的に間違っている」といった指摘をする電話がけっこうあること。今回の瀬名氏発言を巡るWebページ上の喧噪を見た中高生から「あの作品を読んでみたいんだけど、SFというのは怖いものなのではないか?」といった反応が編集部にあったことなどなど…特に後者に関しては、SFファンの閉鎖性が外部から見えることに関する弊害を指摘されたもので、このあたりは何とかしなければならないのではないかと思ったりしました。
また、SFファンが「これはSFではない」といった発言をするときは、あくまで発言者の極個人的な意見の表明に過ぎないのに、ファンダム外の人にとってしてみればあたかもそれがSFファンダム全般の見解として捉えられかねないといった指摘も、一SFファンとしては留意すべきだと感じました。
恒例のトンデモ本大賞。今年のノミネート作は4つでしたが、そのうち印象に残ったのは、渓由紀夫「奇想天外SF兵器」(新紀元社)と江本勝「水は語る」(成星出版)の2冊でした。前者は、SF作品に出てくる各種兵器の解説・紹介本なのですが、「宇宙の戦士」の作者をクラークとするなど、とにかく誤解・誤記の多いことが話題になりました。後者は、水を凍らせたときにできる結晶の形から、水には言葉や音楽を理解する力があるとする本。まったくナンセンスというか、笑うしかないようなものなのですが…実はその次の日に見た企画「スケプティクスの部屋」でパネリストの菊池聡氏がご自分の大学で学生からきいたエピソードとして、医学部の先生が学生に本書の内容を肯定的に語っていたという話しをあげておられました。なんだか暗然とした気分になります。
結局、本年度のトンデモ本大賞は「奇想天外SF兵器」に決定しました。ここだけの話し、実は私この本を持っています。加藤直之氏の表紙で買ってしまったのですが…今までは本棚の肥やしと化していましたが、今度通読してみようと思います。 ちなみに、トンデモ本大賞はこの企画の参加者の投票で決められるのですが、私は迷わず「奇想天外SF兵器」に投票しました。
追記:
このトンデモ本大賞2002の模様は、最近刊行された「と学会年鑑2002、太田出版」に収録されています。
なお、今大会で惜しくも(?)次点となった「水は語る」ですが、同じ著者による同様の書籍が最近メジャー出版社から刊行されたようでして、複数の書店でPOP付きで平積みされているのを目撃しました。私は内容を見ていないので断定的なコメントはできないのですが…やっぱり暗鬱とした気持ちになってしまいますね。
帰宅してから、自宅の本棚にしまってあった「奇想天外SF兵器」を拾い読みしてみたのですが、想像以上にぶっ飛んだ文章で、途中で投げ出してしまいました。まぁ、個性的な文章と捉えることもできると思うのですが、少なくとも私の目からは回りくどくてわかりにくい文章ではありました。ところで、上記で「宇宙の戦士」の著者をクラークと書いているとしていますが、一部ハインラインと正しく書いている箇所もありました。謎は深まるばかりでございます。
海洋堂が発売したアクショントイ・パワードスーツに関する開発秘話。このパワードスーツ、今大会で初お目見え。定価5800円のところ、大会特別価格4000円で発売されていました。私も2個購入したのですが、この日200個用意された品物が、夕方までには売り切れたとのことでした。
当初予定されていたゲストは、あさのまさひこ氏、海洋堂の宮脇修一氏、原型師の東海村原八氏の3氏だったのですが、デザインを担当された加藤直之氏の飛び入り参加もあって、大いに盛り上がりました。
とにかく驚いたのは加藤氏のデザインに関するこだわりでした。あくまで人間が入ることを前提に、いっさいの妥協を許さないその姿勢には感動を覚えました。
この内容についてもちゃんと記録しておきたいので、項を改めてまとめたいと思います。
・海洋堂 パワード・スーツの衝撃
今大会は幕張メッセの展示ホール一つを借り切って、夜通しでバカ騒ぎをするというのも企画の目玉だったのですが…私は、夜行バスの疲れから23:00頃には早々にホテルに退散してしまいました。
後できいたところでは、夜の盛り上がりはすごかったそうです。また、夜も更けた頃にはそこかしこで横になる人多数で、正に死屍累々の状況だったとか。
私が再び参加したのは8/19の06:00頃から。いきなりラジオ体操がはじまりました。しかもその第2部はインストラクターを呼んでの本格的なエアロビクス体操。せっかくホテルでシャワーを浴びてきたのに、いきなり汗をかいてしまいました。それにしても、ボスボロットやマジンガーのコスプレをしたまま体操とエアロビクスをやっていた方には頭が下がります。
会場の一角では、マッドビデオの上映なども行われていました。アルマゲドンの予告編の音楽・字幕・ナレーションの上に劇場版セーラームーンRの映像を流していた作品には大笑いさせてもらいました。
また、自主制作のCG映画「デンキネコ」も面白かったです。
朝09:00から行われたクイズ大会では、残念ながら賞品はもらえませんでした。参加者のなかには、賞品のひとつ、「でじこの人生ゲーム」を一人で2〜3個ゲットしていた強者の方もいらっしゃいました。このクイズで受けていたのが「星新一問題」。『星さんの作品「○○○」は次の4つのうちどの作品集に収められているか〜』というもので、ほとんどカン頼りでした。
超常現象を実証的に検証しようという懐疑主義者の企画。コーディネータは菊池聡氏で、志水一夫、皆神龍太郎の両氏がこれに応えるという感じで話しが進みました。
日本では超常現象について感覚的に信じる/信じないを議論するのみで、実際のデータに基づいて実証的な検討を行うという姿勢がない。この点が欧米と決定的に異なる点であるという指摘は興味深かったです。
また、菊池氏が地震の前兆現象に関して、先日話題になったある大学の研究室が出した地震予知と、そこによせられた前兆現象について考察されていたのが印象に残りました。もっと詳しくお話しを伺いたかったのですが、時間が少なくて残念でした。
今年度の星雲賞受賞作に関してはSFオンラインなどの情報をご参照下さい。
私としては、投票にあたってまず海外長編部門にこれといった作品がなかったというのが第一印象でした。「フレーム・シフト」、「過ぎ去りし日々の光」、「ダーウィンの使者」といったあたりがまず思い浮かびましたが、いずれも一長一短というか、短所の方が目立ってしまって、とりたててどの作品とは言えなかったように思います。
海外短編と日本長編に関しては文句なしといった結果でした。特に、海外短編の「祈りの海」は個人的にも思い入れの深い作品です。
反対に納得がいかないというか、ちょっと残念だったのはコミック部門とノンフィクション部門でした。特にノンフィクションは「思考する物語」にとって欲しかったなあ…
そんなこんなで、とりあえずは極私的な日本SF大会参加レポートでありました。
なお、もっと詳しい状況をお知りになりたい方は、湯川さんのSF大会アフターレポートリンク集、一歩さんのアフターレポートリンク集(タイムテーブル形式)などをご覧下さい。